GX・脱炭素といえばエナリスエナリスジャーナル環境問題COPとは?概要や企業への影響をわかりやすく解説

COPとは?概要や企業への影響をわかりやすく解説

気候変動への国際的な取り組みが加速する中、「COP(コップ)」という言葉を目にする機会が増えています。ニュース番組などでは「日本が化石賞(気候変動対策に消極的な国に与えられる不名誉な賞)を受賞!」といった話題と共に取り上げられることもありました。

しかし、企業目線で「COPとは具体的に何なのか」「企業経営にどのような影響があるのか」について、体系的に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。

本記事では、企業の視点からCOPの基礎知識から実務への影響までをわかりやすく解説します。

COPとは何か?

COP(Conference of the Parties)とは、国際条約の締約国会議を指す略称です。生物多様性条約や砂漠化対処条約など、様々な国際条約における締約国会議が存在しますが、近年「COP」と言えば、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議を指すことがほとんどになっています。本記事でも、気候変動に関するCOPについて解説します。

国連気候変動枠組条約(1994年発効)の締約国会議:COPは、地球温暖化対策について世界各国が議論し、条約に関する取り決めを行う最も重要な会議(最高意思決定機関)です。1995年から毎年開催 ※ され、現在では198の国と地域(欧州連合を含む)が参加しています。この会議では、温室効果ガス排出削減目標や各国の取り組みの進捗評価、緩和策や適応策に関する戦略、資金支援のメカニズムなど、気候変動対策に関する国際的なルールを議論し、決定されます。     

※COP26は2020年に開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2021年に延期されました。

なぜ企業がCOPを理解する必要があるのか

COPの決定事項は企業活動に大きな影響を与えます。主に以下の理由から、企業はCOPの動向を把握して事業に取り組む必要があります。

1. 国際的な環境規制の変化を把握して対応するため

COPでの合意に基づいて、各国政府は自国の気候変動対策のための法規制や政策を強化していきます。COPをきっかけとしてカーボンプライシング(炭素税や排出量取引制度など)の導入や、企業の排出量報告義務化など、企業活動に直接影響する政策が実施される可能性があります。また、企業が温室効果ガス排出削減目標を設定する際の科学的な基準もパリ協定の長期目標(1.5℃目標など)のように示されます。

これらの動向をいち早く把握することは、企業の長期戦略を立てる上で不可欠です。

カーボンプライシングについて詳しくはこちらの記事で解説しています。
カーボンプライシングとは?炭素税などの種類やメリット・日本の導入状況と今後の展望について

2. 中長期的な事業構造の変化を捉えて取り組むため

COPを理解することは、企業の長期的な未来を左右する重要な要素です。気候変動対策として脱炭素社会への移行は避けられない流れであり、これを事業機会やリスクとして事業戦略に組み込むことが求められています。再生可能エネルギーや排出削減技術などの緩和策、レジリエンス強化などの適応策、市場メカニズムなどのテーマは、企業にとって新たな事業機会や技術開発のインセンティブとなると同時に、気候変動による物理的な影響や市場の変化などが企業にとっての事業リスクになることを考慮する必要があります。

例えば自動車業界では、パリ協定後に各国が導入した厳しい燃費規制や電動化政策を見据え、フォルクスワーゲンやゼネラルモーターズなどが大規模なEV投資を発表し、事業転換を進めました。逆に環境規制の強化に対応が遅れた自動車メーカーは、EUなどの市場で多額の罰金リスクに直面しています。

また、企業がSBT認定などで野心的な温室効果ガス排出削減目標を設定して気候変動対策に取り組むことは企業価値の向上につながります。一方で、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などで企業の気候変動関連のリスクを情報開示する重要性も増しています。さらに、ESG投資の広がりにより、企業の気候変動対応が投資家の投資判断の重要な基準となっています。

ESG投資についてはこちらの記事で解説しています。
ESG投資とは?注目の背景やCSRやSDGsとの違いを解説

企業に関係する重要な合意事項

COPは以下の図のように1995年から四半世紀以上にわたって開催されてきました。2024年にはアゼルバイジャンでCOP29が開催され、2025年にはブラジルでCOP30が開催される予定です。

これまで開催されたCOPの中でも企業に大きな影響を与えた合意をいくつか紹介します。

1997年 京都議定書(COP3)約束期間2008年~2020年

1997年に日本の京都で開催されたCOP3では、先進国に対して法的拘束力のある温室効果ガス排出削減目標を定めた「京都議定書」が採択されました。この京都議定書(2005年発効)では、 2008年から2012年までの第1約束期間に、先進国全体で少なくとも1990年比約5%の温室効果ガス排出削減を目指すことが決められました。この全体目標を達成するために、各国ごとに異なる数値目標が割り当てられました(日本は6%削減)。また、京都メカニズムと呼ばれるCDM(クリーン開発メカニズム)などの国際的な排出量の取引の仕組みが初めて導入されました。

京都議定書は、国際的に合意された初めての具体的な数値目標を含む画期的な合意でしたが、米国が後に不参加を表明したり、中国やインドなどの新興国・途上国には削減義務が課されなかったりなどの課題がありました。日本も、2013年からの第2約束期間(削減目標18%)については、全ての国が参加する公平で実効性のある新たな国際枠組みが必要との観点から不参加でした。

特に、当時はまだ排出量が少なかった新興国が、その後急速な経済発展に伴い大量の温室効果ガスを排出するようになったことで、実効性に疑問が投げかけられることになりました。

2015年 パリ協定(COP21)2020年以降の国際枠組み

2015年にフランスのパリで開催されたCOP21で採択された「パリ協定」は、京都議定書の課題を克服し、ほぼ全ての国連加盟国が参加する2020年以降の新たな国際枠組みとして画期的なものでした。この協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑える(さらに1.5℃に抑える努力を追求する)という長期目標(気温目標)を設定しました。

重要な特徴は先進国・途上国の区別なく、全ての締約国が気候変動対策に参加し、排出削減目標を含む国別の貢献(NDC)を定期的に提出・更新することを求められていることです。目標設定のアプローチも国際交渉で割り当てられるトップダウン型ではなく、各国が自国の事情を踏まえて決定するボトムアップ型になっています。

さらに、世界共通の長期目標(1.5℃目標など)をベースに5年ごとの進捗確認と目標引き上げのサイクル(GST:グローバル・ストックテイク)などのトップダウン的な仕組みを組み合わせたハイブリッド型になっています。

この長期目標を達成するために、温室効果ガスに関する長期目標も設定され、出来る限り早くピークアウトさせ、その後に急速に削減を進めることにより、化石燃料などからの人為的な排出量と森林などの吸収源による吸収量を均衡させ、21世紀後半にはネットゼロ排出にすることを目指しています。これを受けて日本でも2020年10月26日に「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、企業の脱炭素経営が加速することになりました。

パリ協定では、先進国が開発途上国の緩和策や適応策の実施を支援するための資金を提供することが義務付けられており、2020年までに官民合わせて年間1000億ドルの金額目標が確認され、2025年まで延長されました。さらに、市場メカニズムの活用を含むJCM(二国間クレジット制度)などの国際協力による目標達成の枠組みも含まれています。また、気候変動の悪影響に対する「適応」に関しても世界全体の目標(GGA)を設定し、適応能力の向上、レジリエンスの強化を目指しています。

京都議定書とパリ協定の主な違いは以下の通りです。

比較項目京都議定書パリ協定
発効年2005年2016年
対象期間第一約束期間:2008~2012年
第二約束期間:2013~2020年
2020年以降(期限なし)
対象国先進国のみに削減義務すべての国が削減目標の設定に参加
目標設定方法トップダウン(国際交渉で各国の削減目標を決定)ボトムアップ(各国が自主的に目標を設定)
締約国数192カ国・地域196カ国・地域

2021年 パリ協定のルールブックが完成(COP26)

2021年に英国のグラスゴーで開催されたCOP26では、パリ協定の実施指針(ルールブック)が完成しました。特に注目すべきは、国際的な排出量取引に関するルールが合意されたことです。このルールは、企業が国境を越えて温室効果ガス排出削減プロジェクトに投資し、その成果を自社の削減目標達成に活用できる可能性を広げました。

また、COP26では「グラスゴー気候合意」が採択され、石炭火力発電の段階的削減や、2030年までの野心的な排出削減目標の強化が合意されました。これにより、石炭関連事業への投資リスクが高まるとともに、再生可能エネルギー事業への投資機会が拡大しています。

2023年 グローバル・ストック・テイクの初実施(COP28)

2023年にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されたCOP28では、パリ協定に基づく初めての「グローバル・ストック・テイク(世界全体の実施状況の包括的評価)」が行われました。この評価では、現状の各国の取り組みでは1.5℃目標の達成に大きな隔たりがあると結論づけられました。

こうした結果を受けて、各国は2025年までにより野心的な1.5℃目標と整合する排出削減目標(NDC)を提出することが求められています。日本は、閣議決定した第7次エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画に基づくNDCを2025年2月に提出しました。このNDCでは、2035年までの温室効果ガスの削減目標を60%削減(2013年度比)、2040年度までに73%削減としています。これは企業に対しても、一層の脱炭素化への圧力となるでしょう。

また、COP28では史上初めて化石燃料からの「移行(transition away)」に言及した合意文書(UAEコンセンサス)が採択されたことも画期的でした。この中では、2030年までに再生可能エネルギー設備の3倍増とエネルギー効率改善率2倍の合意も含まれています。これにより、化石燃料依存型のビジネスモデルからの転換が一層加速すると予想されます。

再生可能エネルギー3倍増に向けては、2030年に向けて世界全体で年間1TWの再生可能エネルギーの導入を目指す必要があると指摘されています(IRENAの評価レポート)。ちなみに、2024年には世界全体で約0.6TWの再生可能エネルギー設備が導入されましたが、さらに導入を加速する必要があります。

今後のCOPで重要な議題

これまでの主なCOPの合意を振り返ってきましたが、今後のCOPではどうなるのでしょうか?最近のCOPで注目が集まっている議題を紹介します。

緩和(Mitigation)

「緩和」とは、温室効果ガスの排出削減や吸収源(森林など)の強化を通じて、気候変動の進行を抑制する取り組みを指します。COP27で採択された「緩和作業計画」では、2030年までの排出削減をどのように加速するかについての対話が続けられています。

今後、各国はより厳しい排出削減目標を設定する可能性が高く、それに伴って企業に対する規制も強化されると予想されます。特に、エネルギー多消費産業や排出量の多い製品を製造する企業は、技術革新や事業構造の転換を迫られるでしょう。

適応(Adaptation)

「適応」とは、既に避けられない気候変動の影響に対して、社会やシステムの脆弱性を減らし、回復力を高める取り組みを指します。異常気象の増加や海面上昇など、気候変動の影響は既に顕在化しており、これらに適応するための国際協力が重要視されています。

企業にとっても、気候変動による物理的リスク(洪水や干ばつなどによるサプライチェーンの寸断など)への対応は重要な経営課題です。また、レジリエンス(回復力)の高い社会インフラや住宅、防災製品など、適応関連の新たな市場機会も生まれています。

参考:気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)|環境省

気候変動対策の「緩和」「適応」について、詳しくはこちらをご覧ください。
企業が取り組むべき気候変動対策とは?事例&成果も解説

気候資金(Climate Finance)

「気候資金」とは、気候変動対策に必要な資金の流れを指します。2024年11月に開催されたCOP29では、先進国から途上国への気候資金の新たな年間目標(NCQG)について合意に達し、先進国が主導して少なくとも年間3,000億ドルを動員することや、2035年までに年間1兆3,000億ドル以上に拡大することを全てのアクターに対して共に行動することを求めることが決定されました。ただし、合意されたものの多くの開発途上国からは、年間数兆ドルとも見積もられている実際に資金ニーズに比べて目標額が低すぎるとの不満も表明されています。

これにより、再生可能エネルギーやエネルギー効率化プロジェクトなど、途上国における低炭素投資の機会が拡大すると予想されます。日本企業にとっても、自社の技術や製品を活用した国際協力ビジネスの可能性が広がるでしょう。

パリ協定第6条(市場メカニズム)

パリ協定第6条は、国際的な排出量取引の仕組みなど各国がNDC達成に向けて自主的に国際協力するための枠組みについて定めています。JCMなどの市場メカニズムについては、COP26およびCOP29で合意されたルールに基づき、各国間での排出削減クレジットの取引や、民間企業が参加できる新たな市場メカニズムの設計が進められています。

参考:環境省 COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料

この仕組みが本格的に稼働すれば、企業は国境を越えた排出削減プロジェクトに投資し、そのクレジットを自社の削減目標達成に活用できるようになります。コスト効率の良い排出削減手段として、多くの企業にとって重要なツールとなる可能性があります。

COPのパビリオンで技術や製品をアピールすることも

COPの会場では、本会議と並行して各国や国際機関、民間団体などが独自のパビリオン(展示・イベントスペース)を設置します。ここでは気候変動対策に関する最新の技術や取り組みが紹介され、国際的なネットワーキングの場ともなっています。

例えばCOP29のジャパンパビリオンでは、日本の官民が連携して脱炭素技術や取り組みを世界に発信しました。参加企業は自社の環境技術や製品をアピールするとともに、国際的なパートナーシップを構築する機会を得ています。

参考:COP29ジャパンパビリオン – 環境省

COPの議論から生まれるビジネスチャンスを活かそう

COPでの国際的な合意は、規制強化というリスクだけでなく、新たなビジネスチャンスも生み出します。

再生可能エネルギー・省エネルギー技術:各国の脱炭素目標達成に貢献する技術への需要は今後も拡大が見込まれます。太陽光発電・風力発電や蓄電システム、エネルギー効率の高い設備・機器などは引き続き注目される分野です。

気候変動適応技術:異常気象や自然災害に対するレジリエンスを高める技術やサービスの需要も増加しています。防災システムや耐候性の高い建材、水資源管理技術などが注目されています。

排出量取引・グリーンファイナンス:炭素市場の拡大に伴い、排出量の測定・報告・検証(MRV)サービスや、環境配慮型プロジェクトへの投資商品などの金融サービスも成長分野です。

グリーンファイナンスについて、詳しくはこちらをご覧ください。
脱炭素経営を推進するグリーンファイナンスとは

COPの議論を単なる国際政治の動きとして傍観するのではなく、自社のビジネス戦略に積極的に取り込んでいくことが、これからの企業経営に求められています。気候変動対策は社会的責任であると同時に、新たな成長機会でもあります。

※記事冒頭に掲載のCOP29の写真は監修者より提供

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Supervisor 監修者
松原 弘直 Hironao Matsubara NPO法人環境エネルギー政策研究所 理事・主席研究員

千葉県出身。東京工業大学においてエネルギー変換工学の研究で工学博士、製鉄会社研究員、ITコンサルタントなどを経て、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて取り組む研究者・コンサルタントとして現在に至る。持続可能なエネルギー政策の指標化(エネルギー永続地帯)や自然エネルギー100%のシナリオの研究などに取り組みながら、国内外の自然エネルギーのデータ分析や政策提言を行う。

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