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グリーンウォッシュとは?企業のための環境配慮表示の基本と実践ガイド

脱炭素経営への取り組みが加速する中、企業の環境配慮に対する注目が高まっています。しかし、環境への取り組みを適切に伝えるには注意が必要で、一歩間違うと、環境に配慮しているように装っているという意味の「グリーンウォッシュ」と指摘されるリスクもあります。

とはいえ、過度に恐れる必要はありません。いくつかの基本的なポイントを押さえることで、適切かつ効果的な環境配慮情報の発信は十分に可能です。

本記事では、グリーンウォッシュの基本的な考え方から具体的な事例、最新の規制動向まで、企業担当者が知っておくべき情報を解説します。

グリーンウォッシュとは

グリーンウォッシュ(Greenwash)とは、環境負荷削減の取り組みや効果を実際のもの以上に見せかける行為や表現を指します。企業側が意図していなくても、結果として誤認させてしまう表現も含みます。「グリーン(環境配慮)」と「ホワイトウォッシュ(白く塗り隠す=粉飾する)」を組み合わせた言葉で「グリーンウォッシング」と呼ばれることもあります。

グリーンウォッシュと指摘されやすい具体的なものを紹介します。カナダのマーケティング会社であるTerraChoice社が提唱した「グリーンウォッシュの7つの罪」は、生物多様性に関する環境配慮情報における典型的な問題点を整理したものです。これらの罪に当てはまる情報発信は「グリーンウォッシュだ」と指摘されてしまうかもしれません。

罪の種類内容具体例
隠れたトレードオフの罪限られた点に基づいて、製品が環境に優しい(生物多様性を阻害しない)と主張すること特定のポジティブな調査結果のみを基に、製品が生態系全般への悪影響がないと商品説明に記載する
証明を示さない罪信頼できる根拠を提示せず、「ネイチャーポジティブ※に寄与する」と主張すること信頼できる機関での実証を確認せず、「環境を汚染しないXXという原料を使用している」と発表する
あいまいさの罪定義が不十分・範囲が広いため、消費者が意味を誤解する可能性があることウランや水銀も自然由来であるため、All Natural=「環境に良い」とは必ずしも言えない中、All Naturalと製品に記載する
偽りのラベルを表示する罪第三者の推奨がないにも関わらず、あたかも推奨されているように見せかけること該当機関への確認無しに、「XX機関も推薦」と製品に記載する
無関係の罪関係のない情報をもとに、ネイチャーポジティブへの貢献を主張すること法律で決められている基準を満たしているだけなのに、あたかも特別な基準を満たしたかのように記載する
悪を比べてましなほうを宣伝する罪生物多様性破壊をもたらす要因2つを並べ、限られた選択肢の中のみでインパクトを主張し、消費者の注意をより大きな問題から逸らすこと競合他社A社と比べて、自社の製品は環境負荷が低いため生物の多様性を破壊しない、と主張する
不正確の罪ネイチャーポジティブに関する主張が誤っていることネイチャーポジティブ指標の基準を達していないにも関わらず、認証マークを使用すること
引用元:グリーンウォッシュ 7つの罪 – IUCN日本委員会

※ネイチャーポジティブ:日本語訳では「自然再興」。生き物が絶滅していくなど「ネガティブ」な状態を、生態系が回復する「ポジティブ」な状態に切り替えていく取り組みのこと。

悪意を持って騙そうとしたのではなく、伝え方を間違ってしまうケースが多い

グリーンウォッシュの7つの罪を見ると、消費者を意図的に騙そうとする悪質な企業を想像してしまうかもしれません。しかし、実際に過去の事例を見てみると、多くの場合は悪意を持って消費者を騙そうとしたわけではなく、環境への影響の見落としや表現方法への配慮が足りなかったことが原因です。

グリーンウォッシュを過度に恐れる必要はありませんが、過去の失敗事例や明確に決まっているルールについての知識を持っておくことは重要です。適切な知識があれば、自信を持って環境配慮情報を発信することができます。

では、具体的にどのような事例があり、各国ではどのようなルールが設けられているのでしょうか。以下では、実際に起きたグリーンウォッシュの事例と、日本を含む各国の規制動向を紹介します。これらを理解することで、環境配慮情報の発信における適切な線引きがより明確になるでしょう。

実際にあったグリーンウォッシュの指摘事例

では、実際に環境配慮製品として市場に出されながらも、グリーンウォッシュとして問題提起された具体的な事例を見てみましょう。どの事例も「うっかり自社でもやってしまいそう」というリスクを感じます。ぜひ参考にし、同じ失敗をしないようにしましょう。

竹を原料とした繊維製品

ある企業が販売するレーヨン繊維製品を「環境にやさしい竹製品」と偽って販売していた事例です。この企業は「竹を原料とし、環境に優しいプロセスで作られた織物」と宣伝していましたが、実際には竹のセルロースを分解してレーヨンに変換する際に有毒な化学物質の使用が必要でした。この環境への配慮を誤解させるような表示について、米国連邦取引委員会(FTC)から告発されました。

素材の原料だけでなく、製造工程全体の環境影響を正確に開示することが重要です。

環境認証ラベルを得た木材

ある家具メーカーが使用する木材には、世界有数のグリーンラベルシステムである「FSC認証」を取得していると表示されていました。しかし環境調査団体の調査により、絶滅危惧種が生息する森林で不法伐採された木材で作られたブナ材であることが判明しました。

環境認証ラベルを使用する場合は、サプライチェーン全体での遵守を確認する必要があります。

オーガニックコットンTシャツ

持続可能な製品開発やサプライチェーン管理がなされているかを評価するために、世界中のアパレル業界で使用されている評価指標に「Higg Index」があります。この指標を表示していたあるTシャツに対し、ノルウェー消費者庁が問題があると指摘しました。具体的には、評価の算出に用いられた元データとなる綿花の栽培方法や水使用量などが地域や農家ごとに異なるにもかかわらず、資源利用や環境影響の地域差が考慮されていないこと、一部で古いデータが使用されていること、さらに有機肥料からの温室効果ガス排出量が考慮されていないことなどが問題点として挙げられました。

環境や社会に対する評価指標を用いる際は、その算出方法や前提条件を十分に確認することが重要です。

参考:環境省「グリーンファイナンスの動向について」

海外におけるグリーンウォッシュを巡る最新動向

それでは欧米の政府による主な規制を紹介します。グリーンウォッシュに対する規制は、特に欧米において厳格化されており、グローバルに事業展開する企業は動向を注視する必要があります。

さらに欧米で確立されたルールが他の地域にも波及していく傾向にあるため、日本のルールがこの先どう変わっていくかを予測するのにも役立ちます。

欧州のグリーンウォッシュ防止のための4施策

欧州連合(EU)では、2024年に環境配慮情報に関する規制が大幅に強化され、グリーンウォッシュ防止のための4つの施策が打ち出されました。

  1. 「消費者保護(グリーンウォッシング禁止)指令」(2024年2月採択)では、グリーンウォッシュを用いたマーケティング方法を禁止しています。EU加盟国は、2026年までに国内法として施行することになります。
  2. 「グリーン・クレーム指令」(2024年3月採択)では、企業が環境主張を行う際に第三者検証機関からの事前承認が必要であることを定めました。違反すると年間売上高の少なくとも4%にあたる罰金などが科されます。2027年から適用される予定です。
  3. 「エコデザイン規制(ESPR)」(2024年7月施行)は、EU市場でのサステナブルな製品の情報開示とリユース・リサイクル性や耐久性向上などのためのエコデザインの最低基準を導入します。
  4. 「修理の権利指令」(2024年4月採択)は、消費者の製品修理の権利を保証し、廃棄より修理を促進します。EU加盟国は、2026年までに国内法を整備する必要があります。

これらの規制により、EU市場では科学的根拠に基づく具体的な環境主張が求められるようになっています。特に「カーボンニュートラル」「カーボンオフセット」等の表示には厳格な根拠が求められます。

アメリカのグリーンウォッシュ対策

アメリカでは、連邦取引委員会(FTC)が「グリーンガイド」を通じて環境配慮情報に関するガイドラインを提供しています。このガイドラインは1992年に初めて制定され、これまでに3回の改訂が行われてきました。

2022年12月、FTCは2012年以来となる「グリーンガイド」の改定案を公表しました。この改定ではグリーンウォッシュ規制をさらに強化する方向性が示されています。

日本におけるグリーンウォッシュを巡る動き

欧米ほどではありませんが、日本国内でもグリーンウォッシュに対する規制や監視が徐々に強化されています。企業が脱炭素社会への移行をアピールする一方で、その実態や取り組みの質、将来的な影響について十分に情報提供を行わず、消費者に誤解を与えかねないという点でも考慮していく必要があります。

まだあまり多くはありませんが、日本国内の具体的な動きを紹介します。

国内で初の行政処分!消費者庁「景品表示法」

2022年12月、消費者庁は生分解性プラスチック製品に対して景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして措置命令を出しました。これは日本国内で初めてのグリーンウォッシュに関する行政処分となります。

参考:カトラリー、ストロー、カップ等の販売事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について|消費者庁

対象となった製品は、特定の環境下でのみ生分解する性質であるのに対し、土壌や海中でも分解するかのような誤解を消費者に与えると判断されました。この事例は、環境配慮情報に対する消費者庁の監視強化を示すものとして注目されています。

実務担当者向けポイント

リスク低減のためにまず確認! 環境省「環境表示ガイドライン」

環境省は、事業者による環境配慮情報提供の信頼性向上と消費者の適切な選択を促進するため、「環境表示ガイドライン」を策定・公表しています(2013年改訂)。同ガイドラインでは、環境表示の基本的な考え方やチェックポイントが示され、特に「あいまいな表現」や「誤認を与える表現」の回避が強調されています。

環境表示の適切な実施は、企業の環境への取り組みを社会に正確に伝える手段であると同時に、不適切な表示によってグリーンウォッシュと判断され、社会的信用を失うリスクの低減にも直結します。

実務担当者向けポイント

経産省「環境配慮設計ガイドライン」

経済産業省でも、グリーンウォッシュ規制の導入に向けた検討が進められています。2022年には業種横断的な環境配慮設計ガイドライン(JIS規格)が策定され、製品のライフサイクル全体で環境負荷を低減するための設計の原則、要求事項、実施の手引を定めています。

繊維業界においても環境配慮情報の適正化に取り組んでおり、サステナブルファッションの普及に向けた基盤整備の一環として、「繊維製品の環境配慮設計ガイドライン」を策定しています(2024年3月)。今後、業種毎にガイドラインの策定が検討されています。

参考:繊維産業の現状と政策について|経済産業省

実務担当者向けポイント

資金調達の際は要チェック! 環境省「グリーンボンドガイドライン」

ここまでは製品表示に関するルールの解説でした。一方で、資金調達においてもグリーンウォッシュ防止の重要性が認識されつつあります。

環境省は「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン」(2024年版)において、グリーンウォッシュの防止を重要な課題として位置づけています。同ガイドラインでは、グリーンボンド ※ 発行に際して透明性の確保や情報開示の徹底、第三者レビューの活用などを推奨し、グリーンウォッシュのリスク低減を図っています。

※グリーンボンド…環境に良い影響を与える事業やプロジェクトの資金を集めるために発行される債券のこと。再生可能エネルギーや省エネルギーなどの環境対策に特化した資金調達方法です。

グリーンボンドについて詳しくはこちら
脱炭素経営を推進するグリーンファイナンスとは

実務担当者向けポイント

安心して環境配慮情報を発信するための3つのポイント

ここまで企業の失敗事例や欧米、日本のルールについて詳しく紹介してきました。

ひょっとしたら、環境配慮情報の発信はややこしいと感じられた方もいらっしゃるかもしれません。しかし本質はシンプルで、「できていること・できていないことを正直に伝える」という一点に尽きます。この原則を踏まえた上で、環境配慮情報を安心して発信するための3つのポイントを以下にまとめました。

1. 大前提として、環境配慮情報の発信は「よいこと」

グリーンウォッシュを恐れるあまり、実際に行っている環境配慮の取り組みについて積極的な情報発信を控えることは、社会全体の環境意識向上や持続可能な社会の実現を遅らせることにつながりかねません。

環境配慮への取り組みを過小に報告したり、隠したりする行為は「グリーンハッシング(Green Hushing)」と呼ばれ、こちらも問題視されています。

重要なのは、過大表示も過小表示も避け、実際の取り組みや成果を正確かつ適切に伝えることです。バランスの取れた情報開示が、企業の環境配慮姿勢に対する信頼を高めることにつながります。

2. トレーサビリティを確保する

環境配慮情報の信頼性を高めるためには、原材料の調達から製造、流通、廃棄までの各段階における環境負荷を把握し、そのデータを開示できる体制を整えることが重要です。特に以下の点に注意が必要です。

トレーサビリティが確保されていれば、環境配慮情報に対する疑義が生じた際にも、迅速かつ具体的な根拠を示すことができます。

3. 科学的根拠に基づく情報開示をする

環境配慮情報は、科学的な根拠に基づいて行うことが重要です。

曖昧な表現や感情的なアピールではなく、検証可能な事実に基づいた情報開示が、グリーンウォッシュの指摘を避けるためには不可欠です。

環境省の下記資料にチェックリストが載っているのでリンク先をご覧ください(p.26〜p.30を参照)
環境表示ガイドライン|環境省

また、ライフサイクルアセスメントについて詳しくは下記の記事をご参照ください。
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?

過度に恐れすぎず、真摯に環境配慮情報を開示しよう

環境配慮情報を発信すると、企業には多くのメリットがあります。特に若い世代は環境問題への関心が高く、企業の環境への取り組みを重視する傾向があります。彼らの支持を得ることは、将来の顧客基盤の構築や優秀な人材確保にもつながります。

グリーンウォッシュを心配するあまり情報発信をためらうのではなく、「できていること・できていないこと」を正直に伝える姿勢を貫きながら、自社の環境への取り組みを積極的に発信していきましょう。

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企業が取り組むべき環境配慮の中でも、「脱炭素」は昨今の大きなテーマです。エナリスでは、お客さまの脱炭素推進を力強く後押しするさまざまなサービスをご用意しております。ぜひ下記のページをご覧ください。

Supervisor 監修者
松原 弘直 Hironao Matsubara NPO法人環境エネルギー政策研究所 理事・主席研究員

千葉県出身。東京工業大学においてエネルギー変換工学の研究で工学博士、製鉄会社研究員、ITコンサルタントなどを経て、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて取り組む研究者・コンサルタントとして現在に至る。持続可能なエネルギー政策の指標化(エネルギー永続地帯)や自然エネルギー100%のシナリオの研究などに取り組みながら、国内外の自然エネルギーのデータ分析や政策提言を行う。

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