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現在、国際的な温室効果ガス(GHG)排出量の算定・報告標準である「GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)」の大規模な改定プロセスが進められています。今回の改定では、Scope1、Scope2、Scope3のそれぞれについて要件の見直しが議論されており、企業の脱炭素戦略に多大な影響を与える可能性があります。
なかでも実務への影響が大きく、企業の担当者が動向を注視すべきなのが「Scope2(購入した電力)」の算定ルール見直しです。現在検討されている「アワリーマッチング」や「供給可能性(デリバラビリティ)」などの要件が導入された場合、従来の再エネ調達手法では、将来的に脱炭素としての評価が得られない可能性があります。
本記事では、2025年10月16日時点の公開資料等に基づき、2026年時点で把握しておきたいScope2改定の主な論点と日本企業が今後着手すべき対策について解説します。
※本記事で解説する改定内容は現在議論中の草案に基づくものであり、最終的な確定事項ではございません。

GHGプロトコルは、温室効果ガス排出量の算定・報告に関する事実上の国際標準です。自社での直接排出である「Scope1」、他社から供給された電気や熱の使用に伴う間接排出である「Scope2」、サプライチェーン全体での排出である「Scope3」に分類されます。
現在のScope2算定ルール(ガイダンス)が2015年に策定されて以来となる今回の改定は、2025年後半から始まったパブリックコンサルテーションや作業検討部会(TWG)での議論を経て、早ければ2027年度中には新たな基準が最終化される見通しです。
日本企業にとってこの改定が重要なのは、法定開示との関連です。日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が最終化した開示基準においても、排出量の算定はGHGプロトコルとの整合が求められています。プライム上場企業のうち時価総額の大きい企業から段階的に義務化される予定の、有価証券報告書でのサステナビリティ開示義務(2027年3月期以降)の動きとも関連しています。
改定に合わせて再エネ調達戦略の再構築が必要になる可能性があるため、議論の動向を早期に把握しておくことが推奨されます。
参考:環境省|知っておきたい!GHGプロトコル改訂の最新動向
SSBJ|サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準を公表
Scope2には、企業の選択した調達手法を反映させる「マーケット基準」と、立地する電力網の平均的な排出係数を用いる「ロケーション基準」の2つがあります。今回の改定では、マーケット基準については要件の厳格化が、ロケーション基準についてはデータの精緻化がそれぞれ検討されています。
まずは企業の実務へのインパクトがより大きいと思われるマーケット基準の主な改定案から解説します。

アワリーマッチングとは、文字通り「実際の電力消費」と「再エネの発電(証書)」を同じ時間帯(1時間単位:Hourly)で一致させるという考え方です。
現在のルールでは、「年間」の総消費量と、購入した再エネ証書の総量が一致していれば「再エネ100%」を主張できます。しかし、これでは「夜間に化石燃料由来の電気を使い、昼間に発電された太陽光の証書で帳尻を合わせる」ことが可能であり、実際のCO2削減効果との乖離が指摘されてきました。
そのため改定案では、整合性の証明を「年間」から「1時間単位」へ移行する提案がなされています。この動きは、すべての電力消費をあらゆる時間帯において脱炭素電力で賄うことを目指す「24/7 CFE(24/7 Carbon Free Energy)」という国際的な目標に向けた基本的なアプローチと連動しています。
なお、この厳格な要件はすべての事業者に一律に適用されるのではなく、一定のエネルギー消費量や事業規模を持つ「大規模な事業者」を主な対象とする、閾値(しきいち)の設定が検討されています。
実務においては、時間別のデータ取得が困難な企業向けに、標準的な「プロファイル(推計値)」の利用を許容するなどの緩和措置も議論されています。しかし、「1時間単位の実態に合わせる」という方向性自体は一貫しており、企業は今後、太陽光が稼働しない夜間の再エネ調達(蓄電池の活用や安定電源の確保など)という新たな課題に直面する可能性があります。
―考えられる日本特有の課題
現在の日本の非化石証書制度が、改定後の1時間単位の要件に適合するかどうかは現時点で不明です。仮に非対応となった場合、企業が自ら精緻なアワリーマッチングを実施するには、極めて高い実務ハードルが予想されます。
アワリーマッチングについて詳しくはこちら
>脱炭素の新しい観点「アワリーマッチング」とは?企業が知っておくべきポイント
参考:経済産業省|GHGプロトコルの改定に係る進捗状況:スコープ2ガイダンスに関する改定動向
経済産業省|スコープ2ガイダンス パブリックコンサルテーション資料の解説

「供給可能性」とは、主張する環境価値(証書)が、自社の電力消費拠点へ「地理的に実際に供給され得る電力」に基づいていることを求める要件です。
従来のルールでは、物理的に供給が不可能な発電所から発行された安価な証書を購入し、排出量をオフセットすることが可能でした。しかし改定案では、消費実態との乖離を防ぐため、証書の調達範囲を「市場バウンダリー(物理的に電力が流通・送電可能な市場内エリア)」に限定する方向で議論が進んでいます。つまり、「日本国内ならどこでもOK」ではなく、送電網の制約上、実際に電力をやり取りできる一定の範囲内での調達が重視されるようになります。
もし市場バウンダリーの外(エリア外)から証書を調達する場合は、送電網に空きがありエリア間の電力供給が可能であった裏付けとして「両エリア間の市場価格差が一定以内であること」を示したり、物理的な送電権を確保したりすることで「供給可能性」を実証することが求められる方向で議論されています。これにより、企業は「単に遠方の安い電力(証書)を買う」手法から、自社が立地する地域の電力網の脱炭素化に直接寄与する調達戦略へとシフトせざるを得なくなります。
―日本特有のハードル:送電エリアの境界と制約
日本は東日本と西日本で電力網が大きく分断されているほか、地域間の連系線容量にも物理的な制約が存在します。
そのため、例えば「九州の再エネ証書を購入して、東京の拠点の排出量をオフセットする」といった、物理的な供給可能性の証明が難しいエリアをまたぐ調達は、改定案の要件を満たさないと見なされるリスクが懸念されています。
参考:環境省|知っておきたい!GHGプロトコル改訂の最新動向

改定議論において新たに定義されようとしているのが、SSS(Standard Supply Service:標準供給サービス)というカテゴリーです。これは、特定の個別契約(PPAなど)をしていない場合に購入する、公的制度や標準的な枠組みに依存した電力供給を指します。このSSSに含まれる環境価値は電力網(グリッド)を利用する全員で分かち合うべき「共有財産」とすることが検討されています。その結果、特定の企業が独占して排出ゼロを主張することは認められず、「電力網の平均排出係数(エリア平均)」を用いた報告しか認められなくなる可能性が出てきているのです。
日本において、この「SSS」の対象となる可能性が高い具体的な電力メニューとしては、主に以下の3つが挙げられます。
特に国内で最も大きな影響が出ると懸念されているのが、3つ目の「FIT非化石証書を用いた再エネ100%メニュー」です。そもそもFIT制度は、すべての電力ユーザーが負担する「再エネ賦課金」によって支えられている電源に由来するため、SSSに該当する可能性が極めて高いとされています。
そのため「FIT非化石証書を用いた再エネ100%メニュー」は、「再エネ100%(排出量ゼロ)」を主張することは認められず、その環境価値はエリア平均までの報告に制限される可能性があります。
今後はこうした従来の証書付きプランや標準メニュー(SSS)に頼るのではなく、自社の拠点が位置するエリアや、実際に電力を消費する時間帯といった「物理的な実態」に即した再エネ調達(オンサイトPPAや、同一エリア内でのPPAなど)へシフトすることも検討が必要になります。

ここまで、アワリーマッチングや証書の扱いなど、企業が自ら調達した再エネに関するルールの厳格化について解説してきました。これらは主に、GHGプロトコルが定める「マーケット基準」に関する議論です。
加えてScope2の算定には「ロケーション基準」という、立地する電力網の平均的な排出係数を用いる報告方法が存在し、企業は原則として両方の数値を報告することが求められています。今回の改定案ではこの「ロケーション基準」においてもルールの精緻化が検討されています。
従来、ロケーション基準では「年間の総電気使用量」に「年間平均の排出係数」を掛けるだけのシンプルな算定が認められていました。しかし改定案では、排出係数に関する「階層(ヒエラルキー)」を新設し、入手可能な中で最も精緻な係数の使用を義務付けることが議論されています。
具体的には、「地理的境界>時間的粒度>排出係数の種類」という3つの軸で階層化(優先順位付け)され、以下のような内容で検討されています。
上記の階層に従い「入手可能な中で最も精緻な係数の使用を義務付ける」ことが議論されていますが、「入手可能」の要件としては「公的に利用可能で、無料で利用でき、信頼できる情報源であること」とされています。現在、日本国内でこの要件を満たすものの一つが、国がSHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)用に公表しているデータ(年単位・全国平均など)です。直ちに企業が自力で膨大な生データを集計・管理するのではなく、基本的には公的データを活用する方向で検討が進められています。
今回の改定案は、従来の再エネ調達における「標準的な手法」に対し、電力消費の実績と環境価値の整合性、そして社会全体の脱炭素化への直接的な貢献をより厳格に問う内容となっています。
ここまで解説したGHGプロトコル改定案(Scope2)の主要なポイントをまとめると以下のようになります。
| マーケット/ロケーション | 項目 | 現在(現行ルールの前提) | 改定案 |
| マーケット基準 | 時間的粒度 | 年間ベースでの総量一致 | 「実際の電力消費」と「再エネの発電(証書)」を1時間単位で整合させること(アワリーマッチング)が求められる |
| 地理的境界 | 国内全域から自由に証書の調達・充当が可能 | 証書の調達において、物理的に電力が流通・送電可能であること(供給可能性:デリバラビリティ)の証明が求められる | |
| SSS(標準供給サービス) | 規定なし (FIT証書など、社会全体で負担する制度由来の非化石価値も、証書の購入により自社の削減として主張可能) | 公的制度に支えられた非化石価値(FIT電源など)を「SSS」と定義し、制度を支える電力ユーザー全員の共有財産と考える。このSSSに含まれる非化石価値は、エリア平均の排出係数の使用のみ認める | |
| ロケーション基準 | 排出係数の精緻化 | 年間平均、国単位の係数を掛けるだけのシンプルな算定 | 地理的境界>時間的粒度>排出係数の種類 の3軸の階層を新設し、入手可能な中で最も精緻な係数の使用を義務付ける |
※現在議論中の草案に基づくものであり、最終的な確定事項ではございません。
参考:経済産業省|GHGプロトコルの改定に係る進捗状況:スコープ2ガイダンスに関する改定動向
経済産業省|スコープ2ガイダンス パブリックコンサルテーション資料の解説
ルールの厳格化を見据え、企業には以下の2つのアクションが求められます。
アワリーマッチングへの対応には、1時間単位の電力データと属性情報のひも付けが不可欠です。また、そのような精緻なデータ管理は、今後予定されているSSBJ基準に基づくサステナビリティ情報の法定開示や、それに伴う第三者保証(監査)をクリアするためにも必要になる可能性があります。こうした将来の監査対応も見据え、手作業によるExcel管理ではなく、透明性と正確性を確保できる「CO2排出量可視化ツール」等による一元管理の仕組み化が必要です。
これまでの「エリアを問わず、証書を調達してオフセットする」というアプローチは、今後のルール改定により要件を満たさなくなるリスクが高まっています。今後は、より物理的な実態に即した調達手段へと、中長期的な計画を見直していく必要があります。
再エネ調達の手段として広がる太陽光PPAの各種スキームについて、今回の改定案から受ける主な影響とリスクは以下の通りです。
また、上記のいずれの方法もアワリーマッチングの観点では、夜間や悪天候時の消費分をどうカバーするかは課題として残されています。
PPAについてはそれぞれ以下の記事で詳しく解説しています。
>コーポレートPPAとは?オンサイトPPAとオフサイトPPAの違いをわかりやすく解説!
>オフサイトPPAのフィジカル・バーチャルの違いと将来のリスクを見据えた選び方
Scope3においても「大まかな推計(二次データ)」から、サプライヤーからの直接取得(一次データ)への移行が推奨されるなど、データの精緻化を求める流れは共通しています。全Scopeに共通するトレンドとして、信頼性の高いデータ管理体制の構築が求められています。
参考:環境省|1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド
今回のGHGプロトコル改定は、Scope2における要件厳格化が実務面での焦点となります。これまでの証書に頼った報告から、時間や場所の一致など、より物理的な実態に即した再エネ調達へのシフトは、もはや避けられない潮流です。
ルールが最終化されてから慌てて動くのではなく、議論の方向性が見えている今の段階から自社の現状を把握し、戦略的な対策を検討することが、将来の経営リスク低減と企業価値の向上につながります。
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本記事の作成にあたっては生成AIを支援ツールとして活用し、出力された原案をもとに、エナリスジャーナル編集部が責任をもって編集・加筆を行い制作しています。
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