GX・脱炭素といえばエナリスエナリスジャーナルエネルギーAI普及の裏側で起きる電力問題とは?企業への影響と今すぐできる対策を解説

AI普及の裏側で起きる電力問題とは?企業への影響と今すぐできる対策を解説

ChatGPTやCopilotなど、生成AIを業務に活用することが当たり前になりつつあります。しかし、その裏側で「AI時代の電力問題」が静かに進行しています。

AIの普及により、データセンターの電力需要は急増しており、今後10年で大幅な拡大が見込まれています。この変化は、電力コストの上昇や脱炭素対応の強化という形で、一般企業の経営にも影響を及ぼし始めています。

本記事では、AIの電力消費がなぜ問題になっているのかを整理した上で、企業が受ける具体的な影響今から取り組みたい対策を解説します。

大切なのは、AIの活用を控えることではありません。電力を「賢く使う」戦略を持つことです。

データセンター急増が引き起こす電力問題とは

生成AIの急速な普及に伴い、AIの処理を担うデータセンターの新設が世界中で加速しています。

電力広域的運営推進機関(OCCTO)の2025年度供給計画によると、2023年度まで減少傾向にあった日本の電力需要は、2024年度から増加に転じました。この増加の大きな要因が、データセンターと半導体工場の新増設です。

全国の需要電力量の想定

画像引用元:AIの普及により電力需要が急増! 電力不足を防ぐ取り組みを解説:刊行物|独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]

データセンターによる電力需要の急増

一般的なデータセンター1拠点あたりの消費電力は約50MW程度で、これは一般家庭の約1万~1万6000世帯分に相当します。AIの利用が拡大するほど、こうしたデータセンターの電力需要は増え続けることになります。

実際、OCCTOの想定では、データセンターの需要電力量は2034年度には2025年度の約15倍に至ります。

データセンターの需要電力量の想定

電力広域的運営推進機関「2025年度全国及び供給区域ごとの需要想定について」p.16「データセンターの需要電力量」をもとにエナリス作成

ここで注目したいのは、単に電力の総需要が増えることだけではありません。需要増加に伴い、電力インフラ側にもさまざまな課題が表出しています。

例えば、データセンターが集中する都市近郊や幹線系統ではすでに送電網の「混雑(輻輳)」が生じており、新たな接続を希望しても「系統増強」や「接続待ち」が必要になるケースが急増しています。

東京電力パワーグリッドによると、2024年度にはデータセンター等の接続検討が1,400件、総容量で1億7200万kWというかつてないオーダーになり、系統の混雑が深刻化している状況です。供給能力はあるものの、送電網の工事や変電所新設には年単位の時間がかかるため、電力事業者にとっても大きな課題となっています。

こうした電力インフラの逼迫に対し、政府が打ち出したのが「ワット・ビット連携」という構想です。これは、電力インフラ(ワット)と情報インフラ(ビット)を連携させ、一体的に整備・運用することで電力とデータの最適な利用を図る考え方です。

具体的には、再生可能エネルギーの発電量が豊富な地域(北海道や九州など)にデータセンターを分散配置し、電力の需給状況に応じてデータ処理を制御することで、都市部の送電網への負荷を抑えることを目指します。「データセンターを電源のある場所に近づける」という発想の転換で、電力インフラと情報インフラを一体的に整備する方向性が示されています。

なぜAIは電力を大量に消費するのか|仕組みをわかりやすく解説

AIが電力を大量に消費する理由を理解するためには、AIの処理プロセスを知ることが重要です。

AIの「学習」と「推論」

AIには大きく分けて2つの処理段階があります。

段階内容電力消費の特徴
学習(トレーニング)大量のデータを読み込み、AIモデルを構築する数千〜数万のGPUが数週間〜数ヶ月間フル稼働。膨大な電力を消費
推論(インファレンス)完成したAIがユーザーの問いに答える1回あたりの消費は少ないが、利用者が増えるほど積み上がる

AIへの質問、画像生成、文書要約といった日常的に身近なAI機能は、すべて推論処理にあたります。

推論も無視できない電力消費

「学習ほどではないから大丈夫」と思われるかもしれませんが、ChatGPTへの1回の問い合わせは、Google検索の約10倍(※1)の電力を消費するとも言われています。AIが社会のあらゆる場面に組み込まれることで、この「推論」による電力消費も着実に増加していくと考えられます。

冷却にも大量の電力が必要

AIサーバーは高性能なGPUやTPUを搭載しており、稼働中に大量の熱を発します。この熱を冷やすために、消費電力の30%以上が冷却装置に使われる(※2)ケースもあります。

つまり、AIを動かすには「計算」と「冷却」という二重の電力消費が発生するのです。

「AIは便利だが、電力を大量に消費する」という事実を踏まえた上で、企業としてどう向き合うかが問われる時代に入っています。

※1 出典:日本経済新聞「生成AIの電力消費、検索の10倍 IEA推計」(2024年5月15日)
※2 出典:IEA “Energy and AI” Cooling and environmental management

AI普及が企業に与える2つの課題と省エネ活用の可能性

AIの普及は、企業経営にどのような影響を与えるのでしょうか。ここでは、2つの課題と省エネ活用という新たな可能性を整理します。

課題①:電力コストの上昇

電力需要の増加は、電力市場価格の上昇につながる要因の一つです。2024年度の産業用の電気料金単価は、2010年度比で約83%上昇しています。

出典:デジタル・AI技術による省エネ・生産性向上に向けた手引き(デジタル省エネ手引き)(案)|資源エネルギー庁, p.6(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/049_02_00.pdf

AIの普及による電力需要の増加は、企業の日常業務で欠かせないクラウドサービスの利用料にも影響を及ぼす可能性があります。データセンターが大量の電力を消費しているため、電力価格の上昇や供給の制約は、クラウドサービスのコスト高騰や安定供給リスクに直結します。

課題②:脱炭素対応への圧力(サプライチェーンからの排除リスク)

AIの普及により電力需要が増加すれば、それに伴いCO2排出量も増加します。こうした背景から、企業に対する脱炭素対応への要請はますます強まっています。

まず押さえておきたいのが、温室効果ガス排出量の「Scope」区分です。Scope2(購入した電力由来の排出量)やScope3(サプライチェーン全体の排出量)について、企業にはその開示が一層強く求められるようになっています。

大手企業を中心に、取引先にも脱炭素対応を求める動きが強まっており、対応が不十分な場合には、取引条件で不利になったり、サプライチェーンから排除されたりするリスクも高まっています。

そのため、再生可能エネルギーの積極利用など、環境配慮型の運営は企業評価や取引継続の前提条件としてますます重要視されつつあります。

省エネ技術とAIの融合——課題だけでない新たな可能性

一方で、AIを「省エネ」に活用する動きも進んでいます。

経済産業省の資料によると、AIを活用した需要予測や生産最適化により、エネルギー使用量を大幅に削減した事例が報告されています。

事例効果
AIによる省エネ診断(三菱電機)消費電力を10〜20%削減
強化学習による蒸留塔制御(ENEOSマテリアル)蒸気使用量を約40%削減(年間数千万円のコスト削減)
生産計画の最適化(日本触媒)CO2排出量を年間約500t削減
参照:デジタル・AI技術による省エネ・生産性向上に向けた手引き(デジタル省エネ手引き)(案)|資源エネルギー庁, p.52, 56, 68

また、AI技術そのものの省電力化や電力消費の分散化も進んでいます。

アプローチ概要期待される効果
Green AI(省エネ型AI)AIの計算効率を高め、電力消費や環境負荷の削減を目指すAI技術計算負荷とエネルギー消費を大幅に削減
Edge AIAI処理をクラウドではなくデバイス側で実行データセンターへの通信量・電力負荷を低減するとともに集中負荷を回避
AI専用チップGPU以外のAI処理に最適化された半導体の開発同じ処理をより少ない電力で実行可能に

電力問題を「コスト」としてだけ捉えるのではなく、「競争力強化の機会」と捉える視点が重要です。

AI時代は「脱炭素」も無視できない|2026年以降の制度動向

AIを活用する以上、電力消費の増加は避けられません。だからこそ、「電力の量」だけでなく「電力の質(再エネ比率)」が問われるようになっています。

今後、日本では以下のような新しい規制や制度の導入が予定されています。中には、現時点でまだ検討・設計段階のものも含まれており、すべてが確定・義務化されているわけではありませんが、「これからはこうした方向に進む」という政策の意思ははっきりと示されています。

制度名開始時期概要企業への影響
GX-ETS(排出量取引制度)2026年度大規模排出事業者に排出枠を設定し取引対象企業は排出削減のための脱炭素化コストが発生
化石燃料賦課金2028年度予定化石燃料の輸入事業者等にCO2排出量に応じた賦課金化石電源に依存する電気料金上昇
ウラノス・エコシステム段階的に整備中サプライチェーン排出量の可視化プラットフォームCFP(カーボンフットプリント)提示が求められる方向

排出量取引については以下の記事をご覧ください。
>【2025年最新】排出量取引とは?企業への影響や事例などをわかりやすく解説

AI時代の電力マネジメント|今すぐ始められる2つの対策

ここまで見てきたように、AI時代には 「電力コストの上昇」「脱炭素対応の圧力」 という課題が同時に押し寄せます。

しかし、これらは決して「どうしようもない問題」ではありません。 今から準備を始めることで、コストの抑制と脱炭素対応を両立させることができます。

重要なのは、「電力調達」と「環境価値」の2つの観点から、自社に合った対策を組み合わせることです。

それぞれの対策について、具体的に解説します。

対策①:PPAで電力価格の変動リスクを抑える

PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)とは、発電事業者と電力ユーザーが長期契約を結び、再生可能エネルギー電力を調達する仕組みです。

種類特徴
オンサイトPPA自社の敷地内に太陽光発電設備を設置。初期費用ゼロで導入可能
オフサイトPPA(フィジカル)遠隔地の再エネ発電所から電力を調達。自社に設置スペースがなくても利用可能

再生可能エネルギーを調達することで Scope2(購入電力由来のCO2排出量)の削減 につながり、取引先からの脱炭素要請への対応やRE100などの環境イニシアチブにも有効です。

さらに、電力料金には、電力を使った分だけかかる「従量料金(kWh単価)」と、最大使用電力に基づく「基本料金(kW単価)」の2つがあります。PPAはこのうち、主に従量料金(kWh単価)の変動リスクに対応できる手法です。

あらかじめ長期で価格を固定して契約することで、毎月の電力単価が大きく変動するリスクが抑えられ、見通しが立てやすくなります。

詳しくは下記の記事をご覧ください。
>コーポレートPPAとは?オンサイトPPAとオフサイトPPAの違いをわかりやすく解説!

対策②:非化石証書・J-クレジットで環境価値をカバー

使用する電力に伴う温室効果ガス排出は、「環境価値」を購入することで実質的にゼロとみなす ことができます。

手法仕組み活用方法
非化石証書再エネなどの非化石電源由来の「環境価値」を証書化したもの既存の電力契約を変えずに、使用電力を「実質再エネ」として扱える
J-クレジット省エネや再エネ導入等によるCO2削減量・吸収量を国が認証・クレジット化したもの自社の排出量と相殺(オフセット)し、CO2排出量を実質的に削減できる

これらの環境価値は、Scope2対応やRE100対応に有効ですが、使用できるクレジットの「種類」に厳格な条件があります。「電力契約を変更するのはハードルが高い」という企業でも、まずは環境価値の購入から始めることで、脱炭素への第一歩を踏み出せます。(2026年2月時点)

詳しくは下記の記事をご覧ください。
>非化石証書とは?仕組みや特長をわかりやすく解説
>J-クレジット制度とは?仕組みとメリットについてわかりやすく解説!

まとめ|早めの情報収集と相談先の確保が重要

AI×電力×脱炭素の3つの課題は、互いに連動しています。

今すぐ対策が必要でなくても、早い段階から情報収集を始めることが重要です。電力やエネルギーに詳しいパートナーに、気軽に相談できる関係を作っておくことが、将来的なリスク回避につながります。

エナリスでは、電力供給や節電など、電力に関するさまざまなサービスを提供しています。「まずは話を聞いてみたい」という段階でも、お気軽にお問い合わせください。

再生可能エネルギーの導入方法に悩んでいる企業さまはぜひエナリスにご相談ください

お客さまのご要望や課題に合わせ、最適な脱炭素化の方法をご提案します。お気軽にご相談ください。

参考資料

Supervisor 監修者
小林 輝夫 Teruo Kobayashi 株式会社エナリス 執行役員 事業戦略本部 本部長 兼 みらい研究所 所長 一般社団法人エネルギーリソースアグリゲーション事業協会(ERA)理事

電力ビジネス、エネルギーマネジメント、および脱炭素ソリューションの専門家。 株式会社エナリスにおいて事業企画の指揮を執るとともに、「みらい研究所」の所長として、AIやブロックチェーン等の先端技術を活用した次世代エネルギーシステムの研究開発・社会実装を牽引している。 特に、膨大なデータを活用したAIによる高精度な電力需給予測や、分散型エネルギーリソース(DER)を最適制御するVPP(仮想発電所)の構築において深い知見を持つ。 エネルギーリソースアグリゲーション事業協会の理事も務め、エネルギーDXを通じたカーボンニュートラル社会の実現に向け、政策提言や発信を精力的に行っている。

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