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ペロブスカイト太陽電池とは?構造やメリット・デメリットを詳しく解説

次世代の太陽電池として注目を集める「ペロブスカイト太陽電池」。本記事では、この革新的な技術の基本的な仕組みや構造から、従来のシリコン系太陽電池との違いや特長、そして実用化に向けた課題まで詳しく解説します。環境・エネルギー分野に関心のある方や太陽光発電の導入を検討している方にとって、参考になる情報が満載です。

ペロブスカイト太陽電池とは

ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いた太陽電池のことです。その高い発電効率は従来のシリコン系太陽電池や後述する化合物系太陽電池にも匹敵すると言われており、次世代の太陽電池として注目され、世界中で研究が進められています。経済産業省では、ペロブスカイト太陽電池を以下のように定義しています。

ペロブスカイト太陽電池とは、3種類のイオン(代表的にはA:有機アンモニウム、B:鉛、X:ヨウ素) がABX3のペロブスカイト結晶構造で配列する材料を発電層に用いた太陽電池の総称であり、国内研究者が開発した日本発の技術。

引用:経済産業省|次世代型太陽電池戦略(P.11)

詳細は後述しますが、ペロブスカイト太陽電池が注目される主な理由は、製造コストの低さ軽量性や柔軟性が生み出す用途の広さ、そして弱い光でも発電できる変換効率の高など、これまでの太陽電池にはない多くの利点を持っているからです。まずは、ペロブスカイトの結晶構造やペロブスカイト太陽電池の仕組みなどの基礎的な部分について解説します。

ペロブスカイトの結晶構造

出典:経済産業省 資源エネルギー庁|日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?

ペロブスカイトとは、酸化鉱物である「灰チタン石(かいチタンせき)」のことで「灰チタン石」が「ペロブスカイト構造」と呼ばれる結晶構造を持っています。その構造は化学式ABX3で表され、上の図にあるように、四角いキューブと八面体とが入れ子のようになっている独特な結晶構造で光を効率的に吸収し、電気を発生させやすい特性があります。

さらに、さまざまな元素を組み合わせることで、異なる特性を持つ材料とも合成できる柔軟性も持ち合わせています。この特性を活かして、太陽電池の性能向上を目指した研究が、現在も世界中で進められています。

ペロブスカイト太陽電池の仕組み

ペロブスカイト太陽電池は、上の図にもあるとおり、中心に発電層(ペロブスカイト層)、その外側に正孔輸送層、電子輸送層さらにその外側に電極と5層で構成されています。ペロブスカイト太陽電池に光が当たると、発電層で電子と正孔が発生します。電子は「電気の粒子」、正孔は「電子が入っていた穴」というイメージです。

電子はマイナス、正孔はプラスの性質を持っており、光が当たることで電子は電子輸送層を通ってマイナスの電極へ、正孔は正孔輸送層を通ってプラスの電極へ、それぞれ移動します。この移動によって電流が生じて電力が発生する仕組みになっています。

ペロブスカイト太陽電池は、シリコン系太陽電池と比べて弱い光でも効率的に電力に変換できるという特長があり、室内光での発電も可能とされています。この技術は桐蔭横浜大学の宮坂力教授のグループが開発し、当初は数%程度だった変換効率が、現在では25%程度まで向上しています。

ペロブスカイト太陽電池の主な材料

ペロブスカイト太陽電池の主要な材料の一つがヨウ素です。日本は、このヨウ素の生産量で世界シェアの約30%を占めており、約60%のチリに次いで世界第2位の生産国となっています。日本の国土にはヨウ素を豊富に含んだ地下水が存在するため、原料を国内で安定的に調達することができます。これは経済安全保障の観点からも重要なメリットであり、サプライチェーンの安定性に貢献します。

また、ペロブスカイト太陽電池の材料として、ヨウ素のほかにもヨウ化鉛やメチルアンモニウムなどがありますが、それらは比較的安価で日本国内でも入手しやすいものになります。

現在主流のシリコン系太陽電池は、地球に存在する量が少なく、流通量が限られる「レアメタル」を多用します。よって、手に入りやすい材料を用いるペロブスカイト太陽電池は、製造コストを抑えられるという点においても大きなメリットがあると言えるでしょう。

参照:経済産業省|次世代型太陽電池戦略(P.51)

ペロブスカイト太陽電池の種類

ペロブスカイト太陽電池は、主にフィルム型ガラス型タンデム型の3種類があります。それぞれの詳細は以下のとおりです。

シリコン系太陽電池や有機薄膜太陽電池との違い

太陽電池にはさまざまな種類があります。主な太陽電池について、その性能を下表にまとめました。

ペロブスカイト太陽電池有機薄膜太陽電池シリコン系太陽電池化合物系太陽電池(CIGS)
変換効率(セル)~25%~17%~27%~23%
コスト○→◎
耐久性△→○
軽量
フレキシブル
ローラブル
シースルー
※2019年時点の情報
参照:国立研究開発法人 産業技術総合研究所|ペロブスカイト太陽電池の研究開発動向(P.3)

現在、太陽電池市場の95%を占めているのがシリコン系太陽電池です。一方、今後、次世代型として期待されているのが、ペロブスカイト太陽電池、有機薄膜太陽電池(※1)、化合物系太陽電池(CIGS)(※2)などです。

各太陽電池を比較すると、ペロブスカイト太陽電池は変換効率が約25%と高く、シリコン系太陽電池の約27%に迫る性能を持ちます。また、軽量性やフレキシブル性、巻き取り可能なローラブル性においても他の太陽電池より優れており、特にシリコン系と比べて大きな強みとなっています。

一方、耐久性はシリコン系に比べ劣っており、現在技術開発による改善が進められています。

※1:有機薄膜太陽電池…貴金属を使用せず、炭素を含む有機物を薄い膜にして作った太陽電池のこと。
※2:化合物系太陽電池(CIGS)…銅、インジウム、ガリウム、セレンを混ぜ合わせた化合物を薄い膜にして作った太陽電池のこと。

ペロブスカイト太陽電池の特長

冒頭で述べたとおり、ペロブスカイト太陽電池は、製造コストの低さや軽量かつ柔軟な特性を活かした幅広い用途への適用可能性が期待されています。さらに、原料が国内調達できる点や、低コストでリサイクル可能な点など、従来の太陽電池と比べて多くの特長があることから、次世代技術として世界中で注目されています。

製造や設置のコストを抑えられる

ペロブスカイト太陽電池は、塗布技術を用いた簡単な製造工程で作ることができるため、製造コストを大幅に削減できます。

従来のシリコン系太陽電池が高温処理や真空環境を必要とするのに対し、ペロブスカイト太陽電池は材料を溶解して塗布・印刷するだけで製造可能です。また、レアメタルなどの高価な材料を使用せずに製造できるため、材料コストも抑制できます。

今後、製造工程の簡略化により大量生産が可能となり、スケールメリットによる発電コストの低減も期待されています。すでに一部企業では、30センチ幅の製品の連続生産にも成功しており、量産化に向けた技術開発が着実に進んでいます。

軽量かつ柔軟性があり用途が広い

ペロブスカイト太陽電池は、小さな結晶の集合体が膜となって構成されるため、折り曲げや歪みに強く、極めて軽量という特性を持ちます。シリコン系太陽電池が1平方メートルあたり11~13kgの重量があるのに対し、ペロブスカイト太陽電池はその10分の1程度の重量を実現できると言われています。

この特性を活かし、建物の窓や外壁耐荷重の小さい工場の屋根電気自動車IoT機器ドローンなど、従来の太陽電池では設置が困難だった場所にも幅広く活用できます。実際に、2025年に全面開業予定のJR西日本「うめきた(大阪)」駅の広場部分への導入が予定されています。

弱い光でも効率的に発電できる

ペロブスカイト太陽電池は、光の吸収力が強く、発電効率が高いという特長を持ちます。各種太陽電池のセル(太陽電池の最小単位)の発電効率を下表にまとめました。

太陽電池の種類セルの発電効率(最高記録)
シリコン系太陽電池ヘテロ接合型シリコン27.3%
結晶シリコン(単結晶、多結晶、微結晶)26.1%
化合物系太陽電池CIGS23.6%
有機系太陽電池有機薄膜19.2%
その他の太陽電池ペロブスカイト26.7%
参照:経済産業省|次世代型太陽電池戦略(P.11)

ペロブスカイト太陽電池の発電層は0.5ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)と非常に薄いため、発電層内で発生した電子と正孔が電極までたどり着く距離も必然的に短く効率的な発電が可能です。これにより、曇りの日や室内などの弱い光環境下でも十分な発電能力を発揮できます。

特に、IoTデバイスなどの小型機器への応用が期待されており、センサーやスマートデバイスの電源として活用することで、従来の電池交換の手間を大幅に削減できる可能性があります。また、フィルム状の特性を活かした積層型の開発も進められており、変換効率はさらに向上すると考えられています。

原料を国内で調達できる

先にも説明しましたが、ペロブスカイト太陽電池の主要材料であるヨウ素は、日本の産出量が世界シェアの約30%を占める重要な資源です。約60%を占めているチリに次ぐ世界第2位の生産量を誇り、安定的な供給が可能となっています。

シリコン系太陽電池の原料調達が海外に依存している現状と比較すると、サプライチェーンの安定性が格段に高く、地政学的リスクも大幅に低減できます。さらに、国内産業の競争力強化や新たな雇用創出にもつながることが期待されています。

使用済パネルを低コストで処理できる

2030年代後半以降、使用済み太陽光パネルの排出量が急増することが予想されていますが、ペロブスカイト太陽電池は、その軽量性や減容化といった特長を活かした効率的なリサイクルシステムの確立が期待されています。

また、ガラス基板のペロブスカイト太陽電池は使用後に化学的処理を行うことで、ヨウ素や鉛などの材料をガラスから簡単に分離・回収できます。そのガラスはペロブスカイト太陽電池に再利用できるため、資源の有効活用にも期待できます。

ペロブスカイト太陽電池は、環境負荷を最小限に抑えながら、持続可能な太陽光発電システムの実現を可能にするのです。

国民の負担を抑制できる

先にも触れたとおり、ペロブスカイト太陽電池は従来のシリコン系太陽電池よりも簡素な工程で作ることができ、また原料はレアメタルなどを使用せず国内で調達できることなどから、従来の太陽電池に比べて製造コストを大幅に抑えることが可能です。

今後、技術開発の進展によって発電効率が上がったり、また大量生産体制の確立によって製造コストが低減したりすることで、ペロブスカイト太陽電池は安価な再生可能エネルギー源になるかもしれません。そうなれば、再エネ普及を目的として電気料金に上乗せされている再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の負担が軽減される可能性もあります。

ペロブスカイト太陽電池は、環境負荷の低減と経済性を両立しつつ、国民負担を抑制した形での再生可能エネルギーの普及に大きく貢献するでしょう。

ペロブスカイト太陽電池の課題

ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた課題として、「寿命の短さ・耐久性の低さ」「大面積化の難しさ」が挙げられます。

耐用年数については、従来のシリコン系太陽電池が20年以上であるのに対し、現状のペロブスカイト太陽電池は5~10年程度と短いです。耐久性の低さの主な原因は、赤外線や紫外線による結晶の劣化、および湿気による性能低下です。現在、20年相当の耐久性の実現を目指した技術開発が進められています。

また、従来の技術では大面積の均一な製膜が困難だったため、エネルギー変換効率が低下しがちでした。しかし、製造技術の改良により大面積塗布法などが開発され、変換効率は大きく改善しつつあります。

参照:NEDO|ペロブスカイト太陽電池大面積モジュールで世界最高変換効率16.09%を達成

ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた状況

ペロブスカイト太陽電池は、2025年からの本格的な実用化に向けて、技術開発や実証実験が急ピッチで進められています。発電コストの低減や生産体制の確立、そして実用化における具体的な導入シナリオの策定など、今後のロードマップが明確に示されていますので、詳しく見ていきましょう。

本格的な実用化はいつからか

経済産業省のロードマップによると、ペロブスカイト太陽電池の実用化は2024年度の社会実証を皮切りに、段階的に進められる計画です。短期目標として、2025年からの5年間で、発電コスト20円/kWh、そして数百MW/年規模の生産体制の確立を目指しています。次に、中期目標として、2030年からの5年間で、発電コストを14円/kWhまで低減し、生産体制は約1GW/年規模を計画しています。

さらに長期目標として、2040年以降で10~14円/kWh以下の発電コストの実現と、国内市場約20GW程度の導入を目指しています。また、海外市場への展開も視野に入れた戦略的な実用化計画が進められています。

参照:経済産業省|次世代型太陽電池戦略(P.34)

代表的な日本企業の取り組み

日本の次世代型太陽電池開発の大きな特徴の一つが、産学連携による研究開発の取り組みです。経済産業省のグリーンイノベーション基金事業では、2050年のカーボンニュートラルの達成に向けた取り組みの一環として次世代型太陽電池の開発を推進しており、実証事業を通じてペロブスカイト太陽電池の社会実装を目指しています。

このプロジェクトでは、基盤技術は国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)が実施し、実用化技術は企業を中心に大学が連携するコンソーシアム(共同企業体)が実施します。下表のとおり、企業各社は大学と連携して、それぞれの強みを活かした特色ある開発を展開しています。

事業者名テーマ・実施内容
積水化学工業(幹事)
東京大学
立命館大学
テーマ:超軽量太陽電池「R2R(ロールツーロール)」製造技術開発

実施内容:ロールツーロール技術によって、フィルム状のペロブスカイト太陽電池の実用化を図る。
東芝(幹事)
東京大学
立命館大学
テーマ:フィルム型ペロブスカイト太陽電池実用化技術開発

実施内容:メニスカス塗布方式により、フィルム状のペロブスカイト太陽電池の実用化を図る。
カネカ(幹事)テーマ:サイズフリー・超薄型の特長を活かした高性能ペロブスカイト太陽電池技術開発

実施内容:既に自社で実施してきたBIPV(建物一体型太陽電池)や薄膜シリコン太陽電池の知見を活かしたペロブスカイト太陽電池の開発を行う。
エネコートテクノロジーズ(幹事)
トヨタ自動車
京都大学
テーマ:設置自由度の高いペロブスカイト太陽電池の社会実装

実施内容:軽量・フレキシブル特性、低照度特性を生かしたペロブスカイト太陽電池の開発を行う。
アイシン
東京大学
テーマ:高効率・高耐久モジュールの実用化技術開発

実施内容:大面積モジュールや高耐久モジュールを中心としたペロブスカイト太陽電池の開発を行う。
参照:経済産業省|グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発 2024年度 WG報告資料(P.4)

上記の表中に記載はありませんが、KDDIは2024年2月から、KDDI総合研究所、エネコートテクノロジーズとともに、ペロブスカイト太陽電池を活用した基地局実証実験を群馬県で開始しています。薄くて軽く、そして曲げやすいという特長を持つペロブスカイト太陽電池を電柱型基地局のポールに巻き付けることで、従来は敷地面積が少なく太陽光パネル設置が難しかった基地局で太陽光発電を行っています。今後も3社は、本基地局の商用展開を目指していくほか、ペロブスカイト太陽電池の基地局以外への活用を検討していくとのことです。

日本企業の技術的な強みは、フィルム型など技術的難易度の高い製品開発にあります。中国企業が主力とするガラス基板型と比べて、ペロブスカイト太陽電池は技術的ハードルは高いものの、日本企業の優れた材料技術や製造技術を活かせる領域でもあります。

開発の進捗も着実で、発電効率の向上や耐久性の確保など、実用化に向けた課題解決が進んでいます。特に、企業と大学の密接な連携により、基礎研究の成果を速やかに実用化技術へと展開できる体制が構築されている点が、日本の開発アプローチの強みとなっています。

参照:KDDI株式会社|国内初、曲がる太陽電池「ペロブスカイト型」を活用した基地局実証を開始

まとめ

次世代の太陽電池として注目を集めるペロブスカイト太陽電池。製造コストの低さ、軽量性、柔軟性など、従来のシリコン系太陽電池にない特長を持ち、さまざまな場所への設置が可能です。また、主要材料であるヨウ素は日本が世界第2位の生産量を誇り、経済安全保障の面でも有望視されています。

現在、耐久性の向上や大面積化などの課題解決に向けた技術開発が進められており、2025年からの本格的な実用化を目指しています。国内企業の実証実験も始まっており、日本の強みを活かした技術革新が環境負荷の低減と経済性を両立した持続可能なエネルギー社会の実現に貢献することが期待されます。

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Supervisor 監修者
近藤 元博 Motohiro Kondoh 愛知工業大学総合技術研究所 教授

1987年 トヨタ自動車株式会社。プラントエンジニアリング部 生産企画部 総合企画部長。第1トヨタ企画部長 戦略副社長会事務局長 他。国内外の資源、エネルギー、化学物質、環境管理、生産企画、経営企画、事業企画等事業戦略を担当。
2020年 愛知工業大学総合技術研究所 教授。産学連携、地域連携等を通じ、脱炭素社会、資源循環社会の達成に向けて研究開発、教育に従事。経済産業省総合資源エネルギー調査会 脱炭素燃料政策小委員会。カーボンマネジメント小委員会。内閣官房 国土強靱化推進会議 委員 他

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