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エネルギー基本計画とは?第7次の5大ポイントも解説|企業がとるべき戦略とは
2025年2月18日、政府は「第7次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。これは単なる政策文書ではなく、企業の電気料金やCO2削減義務など、経営に直接影響を与える重要な指針です。 しかし、85ページにも及ぶ膨大な資料か […]
2015年に採択された「パリ協定」で、できる限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトさせ、21世紀後半には温室効果ガス排出量と森林などによる除去(吸収)量のバランスをとることが、先進国・途上国関係なく世界共通の長期目標として掲げられました。排出削減だけでは目標達成が難しいとされるなか、「ネットゼロ」という目標達成の在り方が注目されています。本記事では、ネットゼロの定義や関連する用語、ネットゼロ達成のために企業に求められる対応をわかりやすく解説します。
「ネットゼロ」とは、温室効果ガスの排出量を除去量(負の排出、ネガティブエミッション)で相殺し、正味(ネット)ゼロになっている状態を意味します。
つまり、温室効果ガスをまったく出さないわけではなく、出した分と同じ量を何らかの方法で大気から除去することで、大気中の温室効果ガスの総量を増やさない状態を目指す考え方です。なお、「除去」に対して同じ意味を指す「吸収」という言葉が「森林吸収」のように使われることが多くありますが、ネットゼロの説明としては排出の反対の活動という意味で大気からCO2を取り除くことを示す「除去」(removal)が使われます。
この目標は、主に2050年をターゲットとして地球温暖化の原因となる温室効果ガスの濃度を安定させ、気候変動の影響を抑えるために多くの国で掲げられています。この目標達成に向けて、企業や国レベルだけでなく、個人の生活や産業活動など、あらゆる分野で取り組みが進められています。
近年、世界各国でネットゼロという目標が掲げられるようになった背景には、地球温暖化と、それに対する国際的な危機意識の高まりがあります。
地球温暖化は、異常気象や海面上昇、生態系の破壊など、私たちの生活や社会基盤に多大なリスクをもたらしています。この脅威に立ち向かうため、世界は共通の目標を定める必要に迫られました。その最初の一歩として、1992年に「国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)」が採択されました。これは、温室効果ガスの濃度を安定させることを目的とした国際条約です。
さらに、この条約の延長線上にあるのが、2015年に採択された「パリ協定」です。これは、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることを目標として世界の196カ国が参加・批准した、気温上昇に関するより具体的な枠組みです。パリ協定の合意段階では、1.5℃は努力目標と言うべきものでした。
その後、2018年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で通称「1.5℃特別報告書」が公表されました。そこでは気温上昇を1.5℃に抑えることができた方が、2℃の場合よりも生態系および人間へのリスクが大幅に低いとされています。今後の温室効果ガス排出削減の道筋は多く想定されるのですが、科学者がシミュレーションを行った気温上昇1.5℃で安定化に成功するほとんどの道筋は、2010年比で世界の温室効果ガス排出量を2050年前後には相当量の除去を見込んだ上で正味ゼロ(=ネットゼロ)にするものでした。この報告書によりネットゼロの必要性と除去を可能にする技術に注目が集まりました。この報告書を受ける形で、国際社会では1.5℃目標が努力目標から実現すべき科学的かつ倫理的な達成目標へと格上げされたような扱いになっています。パリ協定においても、各国が発表するLT-LEDS(長期低排出発展戦略)の中で多くの国(2023年9月時点で日本も含む75の締約国)がネットゼロ目標を発表しています。
日本も世界の潮流に歩調を合わせ、2020年には「2050年カーボンニュートラル」、つまりネットゼロを目指すことを宣言しました。
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ネットゼロには関連する用語や似た意味の言葉も多くあります。
脱炭素やカーボンニュートラルなどの言葉は、一般のニュースや記事では、ネットゼロと同義的に使われることも多くあります。しかし、より専門的な議論や企業の戦略においては、それぞれが指す範囲やニュアンスの違いを理解しておくことが重要になります。
もともとは、大気に対して炭素の出入りが中立である、すなわち大気中の温室効果ガス濃度に影響を与えないという意味でしたが、現在は一般的にはネットゼロとほぼ同義に使用されています。
さらに国際標準化機構(ISO)等によれば、ネットゼロは報告主体が直接管理する領域内での温室効果ガスの排出削減と除去により排出量実質ゼロを指し、カーボンニュートラルはそれに加えてオフセットによる排出の相殺を含めた排出ゼロの状態と整理されています。カーボンニュートラル達成には、補完的なオフセットの活用が認められることを示しています。
脱炭素とは、言葉通り社会全体で二酸化炭素の排出量を減らしていく取り組みそのものを指す概念です。
「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」が、排出量と除去量を相殺して「実質ゼロ」を目指すのに対し、「脱炭素」は二酸化炭素の排出を減らし究極的にはゼロにすることを目指します。
カーボン・オフセットとは、自身(人、団体)ではどうしても排出されてしまう温室効果ガスについて、他の場所で実現した温室効果ガスの削減や除去をクレジットなどの形で購入などすることによって、埋め合わせるという考え方です。日本においてはその考え方をベースにした仕組みとして、「J-クレジット制度」などが整備されています。
人為的な廃棄物を再利用するなどして、環境に負荷を与える廃棄物質ゼロを目指す考え方・取り組みです。ここでの廃棄物質には、大気汚染物質や温室効果ガスも含まれます。たとえば電力において、再生可能エネルギーの利用によって温室効果ガスを排出せずに電力を得ることもゼロ・エミッションに対応した方法だと言えます。
近年、多くの企業や業界が2050年にカーボンニュートラルを達成する目標を掲げています。これはまず国のカーボンニュートラル宣言を受けてという流れがあり、企業が脱炭素経営に舵を切ることは、事業を継続するための必要条件となりつつあります。さらに、この大きな流れは、主に以下の3つの側面から要請されています。
企業の脱炭素化は、国が主導する法制度や計画によっても強力に推進されています。日本政府は、「2050年カーボンニュートラル」という長期目標達成に向け、各産業や企業がとるべき方向性を示すと共に努力を促す法律や戦略を次々と打ち出しています。
これらの制度は、全体として単に温室効果ガスの排出量削減を促すだけでなく、脱炭素化への投資や技術開発を積極的に支援し、日本の産業全体を新たな成長軌道に乗せることを目指しています。国が打ち出した多くの法制度・戦略・計画の中から、主なものを下記にご紹介します。
名称 | 種別 | 対象 | 主な目的 |
---|---|---|---|
地球温暖化対策推進法(温対法) | 法律 | 温室効果ガスを多量に排出する事業者など | 温室効果ガス排出量の算定・報告・公表を義務付け、国民や事業者の自主的な排出抑制を促す |
GX推進法 | 法律 | 脱炭素に資する投資を行う事業者全般 | 脱炭素化を経済成長につなげるため、炭素排出に価格をつけたり、GX推進債を発行したりして、企業の投資を支援する |
省エネルギー法(省エネ法) | 法律 | 工場、運輸、建築物など、エネルギーを使用する事業者 | エネルギーの使用の合理化を促し、エネルギー消費を抑制することで温室効果ガス排出量を削減する |
グリーン成長戦略 | 政府の戦略・計画 | 産業界全体 | 脱炭素化を制約ではなく成長の機会と捉え、産業構造の転換や技術革新を促進する政府の戦略 |
エネルギー供給構造高度化法 | 法律 | 電気事業者、石油精製業者など | エネルギー供給事業者に対し、非化石エネルギーの導入目標を義務付けるなど、エネルギー供給構造の高度化を促す |
企業は、投資家や国際社会、一般消費者からより一層の環境配慮を求められています。
近年、顕著になっているのが投資家からの要請で、一例としてESG投資の拡大が挙げられます。「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の観点から企業価値を評価するこの手法によって、気候変動対策を怠る企業は投資を受けにくくなっています。
この投資家の動きの後押しになっているのが、国際社会からの要請です。CDP(気候変動に関する情報開示を求める国際的な非営利団体)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った情報開示の広がりは、企業に温室効果ガス排出量や気候変動リスクの開示を促し、その対応状況の透明性を高めています。企業が開示した情報は、ESG投資家が投資を行ううえでの重要な判断材料になっています。
さらに、消費者の環境意識の高まりも、企業に脱炭素を迫る重要な要因です。消費者がモノやサービスを選ぶ際に、環境配慮されたものであるかどうかが基準のひとつになりつつあります。従来あった商品やサービスの環境配慮表示に加え、企業の開示情報や国際イニシアチブによる評価などがメディア等を通じて消費者の目に届くようになり、消費者のイメージに影響を与えています。
消費者の企業に対するイメージは、投資家の判断基準にも影響します。このように、投資家・国際社会・一般消費者は相互に連関し、全体として企業の脱炭素化を推進しています。
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多くの大手企業がネットゼロ目標を掲げる中で、自社の排出量(Scope1,2)だけでなく、原材料の調達から製品の廃棄に至るまでのサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量(Scope3)の削減に動き始めています。
これにより、大手企業は取引先の企業に対し、温室効果ガスの排出量データの提出や削減目標の設定を求めるようになっています。これまでは直接的な規制の対象外であった中小企業も、大手企業との取引を維持していくためには、脱炭素化への取り組みが避けられない状況です。
Scopeについては下記の記事をご覧ください。
>Scope1,2,3(スコープ)とは?それぞれの違いや定義など サプライチェーン排出量の削減に向けた概念を解説
2050年ネットゼロ達成に向け、現在進行形で温室効果ガスの削減に向けた努力をすることは不可欠です。2022年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量(温室効果ガス排出量から吸収量を引いた値)は、10億8,500万トンCO2で、2013年度から22.9%減少しており、2050年ネットゼロに向けて順調に減少しているといわれています。
ここからさらにネットゼロ達成のスピードを上げるには、経済成長を見据えたさまざまな施策を同時に推進することが必要です。企業としても自社設備等の脱炭素化はもちろん、脱炭素化と事業を連動させた、成長につながる戦略が求められるでしょう。
参考:環境省「2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量について」
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東京藝術大学 美術学部 芸術学科、千葉大学 工学部 工業意匠科を卒業後、ウィスコンシン大学 マディソン校 都市地域計画学科 環境自然資源計画専攻 修了(Master of Science)。2011年に、東京大学大学院 工学系研究科 博士取得。富士通ゼネラル、みずほ情報総研を経て、2013年から九州大学所属。
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