GX・脱炭素といえばエナリスエナリスジャーナルエネルギー脱炭素の新しい観点「アワリーマッチング」とは?企業が知っておくべきポイント

脱炭素の新しい観点「アワリーマッチング」とは?企業が知っておくべきポイント

企業の脱炭素対応は、これまで「再生可能エネルギー100%」の宣言や、その手段としての「再エネ電力の契約」や「非化石証書の購入」などを中心に進められてきました。一方で近年、欧米を中心に、こうした取り組みについて「実態を伴っているのか」「電力系統(グリッド)全体の脱炭素化にどれだけ寄与しているのか」といった観点で、より精緻な脱炭素化を求める議論が行われ始めています。

その中で注目されているのが、「アワリーマッチング」や「24/7 CFE(24時間365日カーボンフリー電力)」という考え方です。本記事では、アワリーマッチングの概念について、企業の脱炭素推進担当者が押さえておくべきポイントを整理します。

アワリーマッチングとは?

アワリーマッチングは、従来の「年間の総量で再エネ電力を確保(年次マッチング)していればよい」という考え方に対し、電力の使用を“時間単位”まで踏み込んでより精緻に脱炭素化の実態を捉えようとする新しいアプローチとして注目されています。まずはその定義と背景から解説します。

アワリーマッチングの定義

アワリーマッチングとは、「電気を使った時間帯」と「脱炭素電源(主に再エネ電源。原子力発電を含む場合もある)が発電した時間帯」を1時間単位で対応づけ(=マッチさせ)る考え方です。

たとえば、昼12時に工場で電気を使った場合、同じ時間帯に太陽光や風力などの脱炭素電源の電気を確保できていれば、アワリーマッチングができていると言えます。逆に夜22時に使った電気の由来が、同じ時間帯の脱炭素電源であるという裏付けがなければ、“時間一致”という観点ではマッチしていないと評価されます。

なぜ「マッチング」というかというと、電力の世界では安定供給のために需要(消費)と供給(発電・調達)を30分単位で「一致」させている ※ からです。年次でまとめて相殺する方式が「年トータルの帳尻合わせ」になりやすいのに対し、アワリーマッチングは「自分が使った電気と、同じ時間帯に発電された脱炭素電源が、しっかり一致していること」を細かく証明できます。

なお「どの範囲(エリア)で一致とみなすか(供給可能性=deliverability)」は、国際的に議論が進んでいる論点です。

※30分単位データとアワリーマッチングの関係について
国際的には「Hourly(1時間)」で語られやすい一方、日本の発電事業者・小売電気事業者・各種市場においては「30分単位」で取引・精算されることが一般的(30分同時同量)で、データも30分粒度で扱われる場面が多くあります。したがって日本の実務では、30分粒度で需給(使用量と調達)を突合し、必要に応じて1時間に集計する、という設計が現実的です。

参考:GHG Protocol|Upcoming Scope 2 Public Consultation: Hourly Matching and Deliverability

年次評価では見えにくい「脱炭素電源で賄っていない時間帯」

年次ベースで「脱炭素化100%」を達成していても、時間単位で見れば脱炭素化された電気で満たされているとは限りません。年次の帳尻では見えにくいものの、脱炭素電源が稼働する時期・時間帯に着目すると、次のようなタイミングで“空白”が生じやすいのが現実です。

アワリーマッチングは、こうした時間帯に「自社が実際にはどの電源に依存しているのか」を見える化し、蓄電池やデマンドレスポンス(DR)、夜間寄与電源の確保などの具体的な対策を検討するための基盤となる考え方です。アワリーマッチングの積み重ねにより、結果的に年間における電力の脱炭素化も達成されます。

なぜ今、世界でアワリーマッチングが議論されているのか?

なぜ今、アワリーマッチングや24/7CFEといった、脱炭素における精緻な考え方が必要とされているのかを整理します。

24/7 CFEとは ― アワリーマッチングとの関係

24/7 CFE(24時間365日カーボンフリー電力)とは、企業や施設が使う電力を、あらゆる時間帯において脱炭素電源で賄うことを目指す考え方です。
ここでの関係性は次の通りです。

また、24/7 CFEの議論では「時間」だけでなく、同じエリアで実際に供給できるかといった“場所/供給可能性(deliverability)”も重要な論点として扱われています。

参照:UN Energy|24/7 Carbon-Free Energy Compact

従来の証書購入だけでは系統全体の脱炭素化に直結しないという批判

従来の証書による環境価値の調達(年間相殺)には、一般に次のような課題が指摘されます。

これらが課題とされるのは、「企業の主張」と「電力系統の実際の排出削減」がズレたままだと、電力システム側で必要な投資(再生可能エネルギーや蓄電池の追加、需給調整、系統増強等)につながりにくいからです。
アワリーマッチングの発想を採ると、脱炭素電源が足りない時間帯やエリアが可視化され、そこを埋める投資(蓄電池、DR、夜間寄与電源の確保等)が促されることで、結果として系統全体の脱炭素化に貢献するというのが論点です。

GHGプロトコル(Scope2)改定の議論

GHGプロトコルは、企業の温室効果ガス排出量(Scope1〜3)を算定・報告する際に広く参照されている国際基準です。
Scope2(購入電力)のガイダンスは2015年版が基礎になっていますが、パブリックコメント(意見公募)等をふまえ、現在改定の議論が進んでいます。

その焦点の一つが、アワリーマッチングや、同じエリアで実際に供給できるかという供給可能性です。仮に基準が厳格化されれば、企業側は「証書を買って年次で相殺する」だけでなく、時間粒度や同一エリアへの供給可能性を意識したデータ管理・調達設計・開示が求められる可能性があります。

最終的なガイダンス確定は2027年度末が見込まれますが、もしアワリーマッチングが推奨・必須化されれば、これまでの「年次の証書購入」だけでは「CO2排出ゼロ」と主張できなくなるリスクがあります。企業は将来のルール変更を見据え、データの取得準備を始める必要があります。

参照:GHG Protocol|Upcoming Scope 2 Public Consultation: Hourly Matching and Deliverability(Scope2改訂論点:Hourly Matching / Deliverability)

非化石証書におけるトラッキングの現状

日本企業がアワリーマッチングを実務として進めるには、非化石証書の仕組みと、トラッキング(属性情報の付与・追跡)がどこまで可能かを理解することが重要です。

現在、日本の非化石価値取引では、証書に電源種や所在地などの属性情報を付与する「トラッキング」の議論・運用が進められています。経済産業省・資源エネルギー庁の資料でも、トラッキングの「現状と課題」を整理し、電力ユーザーのニーズを踏まえた今後の在り方を議論することが明記されています。

一方で、現行の非化石証書は、基本的に「属性(どの電源由来か等)」の証明が中心です。この制度と実務のギャップこそが、24/7 CFEのような先進的な取り組みを目指す企業が直面する課題の一つです。
したがって当面は、非化石証書の活用に加えて、コーポレートPPAによる特定電源の確保や、小売電気事業者が提供する時間単位連動の再エネ電気メニュー、自社での緻密な計量データ管理などを組み合わせ、「制度上の環境価値」と「物理的な時間一致」の双方をポートフォリオとして設計していくのが有用だと考えられます。

参照:経済産業省 資源エネルギー庁|非化石価値取引について
資源エネルギー庁|2021年度第3回再エネ価値取引市場のオークション及びトラッキング実証について

アワリーマッチングに取り組む企業の3つのメリット

アワリーマッチングは簡単ではありませんが、先行して検討・準備していくことには、説明責任や将来制度への備えという意味でメリットがあります。

「グリーンウォッシュ」回避とレピュテーションの維持

グリーンウォッシュとは、実態以上に環境配慮をしているように見せる(根拠が薄い環境訴求をする)行為を指します。環境訴求に対する目線が厳しくなる中で、「年次100%」などの主張が、根拠や前提条件の説明不足だと疑義を持たれやすいのがリスクです。

アワリーマッチングは、「いつの電気を、どの根拠(契約・属性証明・計量)でカーボンフリーと言えるのか」を時間軸で説明しやすくします。結果として、主張の透明性が高まり、誤解や過大表現と受け取られるリスクの低減につながります。

グリーンウォッシュについて詳しくは下記の記事をご覧ください。
グリーンウォッシュとは?企業のための環境配慮表示の基本と実践ガイド

参照:WWF(環境省HP掲載)|CFP表示ガイドの作成に向けて国際的なグリーンウォッシュ規制の動向

カーボンプライシングへの備え(GX-ETS等)

カーボンプライシング(排出量取引、炭素賦課金等)が進むと、CO2排出にコストがかかるため、企業は「どの活動・どの電力使用が、どれくらいのCO2排出コストに見合うか」をより精密に把握する必要が出てきます。アワリーマッチングの考え方を取り入れると、電力使用を時間帯別に見たときに「脱炭素電源で賄えていない時間帯(=排出が残る時間帯)」が可視化されます。すると、

といった対策を、より根拠を持って設計できます。

参照:経済産業省|排出量取引制度の詳細設計に向けた検討方針
GXリーグ|排出量取引制度(GX-ETS)

企業は具体的にどう進める?アワリーマッチング達成のためのアプローチ

アワリーマッチングは、単一の調達手法ではなく、複数のリソースを組み合わせる「ポートフォリオ管理」の実務そのものです。ポイントは、不足時間帯を特定し、需要と供給の差を埋められるよう適切な対策を組み合わせることです。その前提で、代表的な3つのアプローチを紹介します。

コーポレートPPA

コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)は、企業が再生可能エネルギー発電所と長期で電力購入契約を結ぶ仕組みです。アワリーマッチングにおいては、特定の時間帯に、どの電源から電気を調達しているかを明確にできる点が最大の特徴です。

特に太陽光PPAは昼間のマッチ率向上に寄与し、風力や水力などは夜間や季節をまたいだ供給源として活用できます。アワリーマッチングを進める上では、「年総量」だけでなく、どの時間帯にどの電源が寄与するかを意識した電源構成が重要になります。

蓄電池

蓄電池は、アワリーマッチングを実現するうえで極めて重要な役割を果たします。再エネ電源が多く発電する時間帯(例:昼間の太陽光)に電力を充電し、再エネ電気が不足する時間帯(例:夜間)に放電することで、脱炭素電源による発電と需要の時間的なズレを解消できます。

年次マッチングでは見過ごされがちだった「夜間の脱炭素電源の不足」を直接埋められる点で、蓄電池はアワリーマッチングの中核技術と位置付けられます。CO2排出が集中する時間帯に脱炭素電源で充電した電気を放電できる設計が、アワリーマッチングの実現性を高めるのです。これは、カーボンプライシングへの有効な対策の一つとなります。

デマンドレスポンス(DR)

デマンドレスポンス(DR)は、電力を「つくる側」ではなく、「使う側」で調整するアプローチです。再生可能エネルギーの発電量に合わせて工場設備や空調、充電設備などによる電力の使用をコントロールすることで、脱炭素電源の使用比率を高めることを目指します。

なお、容量市場や需給調整市場で行われる入札型のDRは、系統安定化を目的に「調整力」として取引されるものですが、アワリーマッチングの文脈で活用されるDRは、必ずしも市場参加を前提とせず、自社の電力使用の時間構造を見直す運用的な取り組みを含みます。

アワリーマッチングでは、「脱炭素電源による供給を増やす」だけでなく、「需要の時間的偏りを是正する」ことも重要です。DRは比較的初期投資が小さく、既存設備の運用改善から始められるため、最初の一歩として取り組みやすい施策と言えます。

アプローチ主な役割アワリーマッチングへの寄与
コーポレートPPA電力と環境価値の確保特定の再エネ電源と時間を紐づける「ベース」を作る
蓄電池の活用時間的シフト再エネ電気を貯めて時間的に移動させ、「夜間の空白」を埋める
デマンドレスポンス需要側の調整再エネ電源の稼働が多い時間帯へ自らの需要を合わせにいく

まとめ:アワリーマッチングに向け企業が準備すべきこと

アワリーマッチングは「まだ先の話」と決めつけず、まずは“現状を30分(または可能な粒度)で見える化”してギャップを把握することが重要です。100%一致をいきなり目指す必要はありません。脱炭素化をしきれていない時間帯を特定し、そこを埋めるための選択肢(PPA・蓄電池・DR等)をロードマップに落とし込むことが、将来の制度・顧客要請・開示高度化への備えになります。

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