GX・脱炭素といえばエナリスエナリスジャーナルエネルギー「自己託送」とは?メリット・デメリットや2021年の「自己託送に係る指針」見直しを解説

「自己託送」とは?メリット・デメリットや2021年の「自己託送に係る指針」見直しを解説

持続可能な社会を目指す「SDGs」への取り組みをきっかけとして、「RE100」や「CDP」などの国際的なイニシアチブに参加する企業が増えています。

また、2023年4月の「省エネ法」の改正により一定規模以上の事業者は、化石燃料を使用しないエネルギーの導入状況と将来的な利用計画についても報告することが義務付けられました。

これらの目標の達成のために、太陽光や風力などを利用して発電した再エネ電力を積極的に利用する企業が増えています。さらに国際社会で評価を受けるためには、「世の中の再エネ発電設備の増加(これを「追加性」といいます)」に貢献することが重要です。

本記事では追加性のある再エネ調達方法の1つとして注目されている「自己託送」について解説します。

再エネ電力を有効活用できる「自己託送」とは?

遠隔地にある自社や関連企業などの施設内に太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電設備 ※1 を設置し、そこで生み出した電力を自社の電力需要場所に送電するのが「自己託送」という仕組みです。

※1  自己託送は再生可能エネルギーでなくても可能ですが、再エネ電力を求めて自己託送を検討する昨今の潮流を鑑み、本記事では再エネ発電設備による自己託送について解説します。

発電場所から電力の使用場所への送電には、既存の送配電事業者の送配電システムを使用するため、送配電事業者との連携も必要となります。

自己託送の種類

自己託送による再エネ電力の調達には、現在3つのスキームが認められています。
それぞれの違いについて解説します。

  1. 自己託送
  2. グループ内企業自己託送
  3. 組合型自己託送

自己託送

遠隔地にある自社の遊休地や倉庫などの所有施設に再エネ発電設備を設置して、そこから自社工場などの事業所に電力を供給するのが従来の意味での「自己託送」です。

この場合、「発電設備の設置場所および設備の所有者」と「発電した電気を供給する施設の所有者」が同一企業・団体であることが原則です(ただし、発電設備を所有でなくリースで確保し、自社で維持・運用するケースもあります)。

このスキームは、電力小売全面自由化以前は東京電力・関西電力等の大手電力会社10社が、官庁による規制を受けない自主的な取り組みとして行っていた送電サービスでした。

しかし、公共性の高い送配電システムを利用するにあたっての公平性と、季節および時間帯で需要がひっ迫するエリアの需給調整の観点から、この自己託送スキームが国により正式に制度化され、各種の規制緩和により利用しやすくなったという経緯があります。

グループ企業内自己託送

通常の自己託送は「発電設備の設置場所および設備の所有者」と「発電した電気を供給する施設の所有者」が同一企業・団体であることが原則です。しかし、親会社と子会社の関係のように、生産工程・資本・人材などに「密接な関係」を有する場合も、規制緩和により自己託送スキームが認められるようになりました。

これを、「グループ企業内自己託送」と呼びます。

グループ企業内自己託送における「密接な関係」の要件は主に5つあります。

  1. 【生産工程による条件】原材料や製品等の受け渡しがあり、第三者への代替が難しい関係であること
  2. 【資本関係による条件】親会社と子会社の関係、同一の親会社を持つ子会社同士の関係等であること
  3. 【人的関係による条件】一方から他方へ過半数の役員が派遣されていること
  4. 上記1~3単独では条件を満たさなくても、複数を組み合わせれば密接な関係があると判断できること
  5. 上記1以外で、原材料・製品・役務等の提供が長期継続的に行われており、一つの企業とみなせる関係であること

詳細は電気事業法施行規則に定められています。

参照:経済産業省HP 自己託送に係る指針(令和5年4月1日)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/zikotakusou.pdf

組合型自己託送

2021年11月の「自己託送に係る指針」の見直しにより、自己託送のさらなる規制緩和として、「発電設備の設置場所および設備の所有者」と「発電した電気を供給する施設の所有者」が異なる場合でも、両社で「組合 」を設立することにより自己託送ができるようになりました。

このスキームを利用する場合は追加性のある新設の再エネ発電設備に限られ、かつ電力を供給できるのは原則として1箇所のみです。(これを「特定供給」と呼びます)

これは、複数拠点への送電を許可すると、小売電気事業者との区別がつかなくなってしまうためです。2箇所以上に送電する場合は特定供給の条件を逸脱する可能性があり、認可へのハードルが上がってしまいます。

自己託送における「組合」の要件は主に6つあります。

  1. 組合が長期にわたり存続する旨が組合契約書に明記されていること
  2. 供給者と相手方の氏名または名称が組合員名簿等に記載されていること
  3. 「電気料金の決定の方法」と「送配電設備の工事費用の負担の方法」が組合契約書に明記されていること
  4. 特定の組合員に対して不当な差別的取扱いをするような組合契約書の内容でないこと
  5. 供給者が相手方の利益を阻害するような組合契約書の内容でないこと
  6. 組合員が新設して自ら維持運用する発電設備 ※2 による電気取引であること

(※2「再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」に規定された再エネ発電設備)
詳細は電気事業法施行規則に定められています。
参照:経済産業省HP 自己託送に係る指針(令和5年4月1日)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/zikotakusou.pdf

自己託送を導入するメリット

ここまで自己託送の種類を紹介してきました。続いて、自己託送スキームを活用するメリットについて解説します。

電気の使用場所に遊休地がない場合でも、直接再エネ電力を調達できる

電力ユーザーが自社投資で太陽光発電や風力発電などの再エネ発電設備の設置を検討する場合、ネックとなるのが設置場所の確保です。

自社の電力の使用場所に再エネ発電設備を設置したくても、発電設備を設置出来るだけの土地が余っていない、あるいは積載荷重や施設の老朽化の問題で建物屋根に太陽光パネルを設置できないといったケースも少なくありません。近隣との関係や気象条件の影響で設置が困難な場合もあります。

自己託送のスキームを活用すれば、電力の使用場所から離れたところにある土地や倉庫などの施設に発電設備を設置できるため、設置場所の確保がしやすくなります。

グループ企業全体で遊休地や余剰電力を活用できる

グループ企業内自己託送のスキームを活用すると、自社に再エネ発電設備を設置可能な場所がなくてもグループ企業の遊休地や施設を有効に活用できます。

再エネ電力をグループ内で利用でき、余剰電力の有効活用が可能になります。

電気料金を削減できる

円安の影響などでLNGなどのエネルギー価格が高騰すると、卸電力取引市場(JEPX)の取引価格が上昇し、市場に由来する電力価格も今後値上がりするリスクがあります。

自社で発電設備を設置する自己託送は、その供給分に関しては市場の電力価格の影響を受けないことが大きなメリットとなります。また、現在の制度上では自己託送の場合は市場から調達する電力やオフサイトPPAの電力に課せられる「再エネ賦課金」が発生しません(2023年10月時点)。

ただし、上記の制度が再エネ賦課金の負担として公平な仕組みであるかといった点や、再エネ賦課金がかからないことを目的に自己託送を選択するのは制度主旨として正しいかといった点で議論がされています。そのため、今後制度に変更が加わる可能性があることには注意が必要です。

エネルギーの脱炭素化を推進できる

政府は2050年にカーボンニュートラルの達成、2030年に2013年比で温室効果ガスの排出量46%を削減するという方針を発表し、国際社会に向けて発信しています。企業も各種の規制・基準によって誘導されますので、この方針と無縁ではいられません。

例えば、改正省エネ法の定期報告義務のある企業 ※3 は再生可能エネルギーの導入量と今後の導入見込みを所轄官庁に報告しなければなりません。発注元となる企業がサプライチェーンの取引先企業に脱炭素化を求める事例も増えており、省エネ法の報告義務対象外の中小企業にとっても脱炭素は喫緊の課題となりつつあります。

自己託送スキームを活用した再エネ電力の導入は、温室効果ガスの排出量を削減し企業の環境経営に大きく貢献します。

※3 エネルギー使用量が原油換算で年1,500kL以上の事業者

自己託送のデメリットや注意点

自己託送による再エネ電力の導入にはデメリット・注意点もあります。他の方法と比較し、自社に合う再エネ電力の導入方法を考えることが重要です。

自社で再エネ発電設備の設置/運用が必要となる

自己託送の場合は再エネ発電設備を自社グループ内もしくは組合で設置しなくてはなりません。新設する場合は多くの初期投資を必要とするだけでなく、発電設備の運用とメンテナンスなどにも継続的にコストが掛かります。

電力需給計画の提出義務とインバランスリスクがある

自己託送は送配電事業者に送電を依頼するため「30分値同時同量制度」の適用対象になります。

自己託送を行う企業には、電気の需要と供給量を30分単位で予測して「需要調達計画」と「発電販売計画」を提出する義務が発生し、計画と乖離が発生した場合には「インバランス料金」を支払う必要があります。

託送料金が発生する

自己託送は既存の送配電事業者の送配電システムを利用するため、送電量に応じてkWhあたりの託送料金が発生します。

電圧の種類や送配電事業者によって託送料金が違うため、自己託送を検討する際には送配電事業者と事前協議を実施し、収支計画を綿密に立てる必要があるでしょう。

不足分の電力を調達する必要がある

現時点では、再エネによる発電は時間帯や気候による変動が大きく、自己託送だけでは全ての電力需要をまかないきれないケースがほとんどです。不足する分の電力は従来通り小売電気事業者から調達する必要があります。

小売電気事業者が自己託送をサポートするサービスを展開している場合もあります。エナリスも電力の小売と自己託送支援サービスを両方提供している事業者です。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください

自己託送はこんな企業におすすめ

再エネ電力を導入したいものの、どのようなスキームが良いのか悩ましいと感じている企業は多くいらっしゃいます。次のようなケースに当てはまる企業に、自己託送による再エネ電力の導入はおすすめです。

  1. 電力の使用場所の敷地に余裕がなく、施設の屋根に太陽光発電設備を載せられない企業(施設の老朽化や積載荷重の条件を満たさない等)
  2. 電力の使用場所以外の自社もしくはグループ企業の敷地や施設に空きスペースがあり有効活用したい企業
  3. 電力の使用場所の立地に問題があり、発電設備の設置や維持管理が困難な企業(近隣関係・日照条件・豪雪地・塩害地域等)
  4. 自社で発電設備を持っているが、うまく活用できていない企業

エナリスは自己託送の他、オンサイトPPAやオフサイトPPA(フィジカル)などのさまざまな再エネ電力の導入スキームをご提案できます。自社にどの導入方法が合っているのかがわからないという方もぜひご相談ください

自己託送で、コスト削減と再エネ導入を同時に実現へ

企業の安定的な脱炭素経営のためには、環境への取り組みは欠かせないものとなっています。

特に上場企業における環境経営への取り組みは、機関投資家によるESG投資を呼び込むことにもつながるでしょう。より環境に優しい製品やサービスを消費者が選ぶ傾向も強まっています。

本記事でご紹介した自己託送スキームによる再エネ電力の導入は、市場の電力価格の高騰リスクへの対策と温室効果ガス排出量削減を同時に実現でき、企業の環境経営に大きく貢献する可能性があります。

自己託送の導入を検討している方はエナリスにご相談ください

エナリスでは、自己託送をはじめとして多くのお客さまにコンサルティングや脱炭素サービスのご提供の実績があります。また、自己託送の注意点のひとつである「電力需給計画の提出義務」についてもエナリスにて業務を代行することが可能です。
お客さまのご要望や課題に合わせ、適切な再エネ導入方法を提案しますので、ぜひお気軽にご相談くださいませ。

Supervisor 監修者
新島 啓司 Keiji Nijima 環境コンサルタント

東京工業大学大学院 総合理工学研究科を修了後、約30年間、環境、再生可能エネルギー、ODAコンサルタント会社に勤務。在職中は自治体の環境施策、環境アセスメント、途上国援助業務の環境分野担当、風力や太陽光発電プロジェクトなど幅広い業務に従事。技術士環境部門(環境保全計画)、建設部門(建設環境)の資格を持つ。また、英語能力(TOEIC満点)を生かし、現在は英語講師としても活躍中。

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