GX・脱炭素といえばエナリスエナリスジャーナルエネルギーオフサイトPPAと自己託送の違いとは?2021年の見直しを踏まえてわかりやすく解説!

オフサイトPPAと自己託送の違いとは?2021年の見直しを踏まえてわかりやすく解説!

脱炭素経営を目指すためには、企業の事業活動に使用する電力を、太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来の電力に置き換えることが効果的です。

しかし、太陽光や風力などの再エネ発電設備を自社の敷地内に設置して再エネ電力を導入しようとすると、敷地内の様々な制約もあり、設置に高額な初期費用が掛かったり、設置後の維持管理にも大きな手間とコストが掛かったりする場合があります。

その悩みを解決する手法として、遠隔地で発電した再エネ電力を送配電システムを介して調達する「オフサイトPPA(フィジカル)」と「自己託送」の2つがあります。

本記事では、混同されがちな「オフサイトPPA(フィジカル)」と「自己託送」の違いについて、それぞれを比較しながら分かりやすく解説します。

遠隔地から再エネ電力を送る2つの方法:「オフサイトPPA(フィジカル)」と「自己託送」とは

遠隔地にある再エネ発電設備で発電した電力を調達する手法として、「オフサイトPPA(フィジカル)」と「自己託送」があります。

それぞれの概要をご紹介します。

オフサイトPPA(フィジカル)

オフサイトPPA(フィジカル)とは、自社から離れた遠隔地に発電事業者(第三者)が設置した発電設備でつくり出した電気と環境価値をセットで、一定期間の電力購入契約(PPA)により、既存の送配電システムを通じて電力ユーザーとしての企業が調達する手法です。電気の供給契約であるため、小売電気事業者を含む3者で契約を締結するのが一般的です。

送電には既存の送配電システムを使用します。電気および環境価値の供給に関しては一般的に小売電気事業者を介した契約を締結します。

オフサイトPPA(フィジカル)に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

>オフサイトPPAとは?特徴やメリット・デメリットをわかりやすく解説

自己託送

遠隔地にある自社の遊休地や倉庫などの所有施設に再生可能エネルギーなどの発電設備を設置して、そこから自社の工場などの事業所に電気を供給するのが自己託送です。

従来は「発電設備の設置場所および設備の所有者 ※1」と「発電した電気を供給する施設の所有者」が同一企業・団体であることが自己託送の条件でしたが、指針の見直しにより「発電設備の設置場所および設備の所有者」と「発電した電気を供給する施設の所有者」が異なる場合でも、両社で「組合」を設立することにより自己託送ができるようになりました。

その結果、オフサイトPPA(フィジカル)と混同しやすくなっています。

※1 発電設備をリース契約し自己託送を行うケースもあります。

オフサイトPPA(フィジカル)と混同しやすい「組合型自己託送」

2021年11月の電気事業法施行規則の見直しにより認められたのが「組合型自己託送」です。

これは、「発電設備の設置場所および設備の所有者」と「発電した電気を供給する施設の所有者」が異なる場合でも、両社で「組合」を設立することにより自己託送をできるようにしたものです。

自己託送についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

>「自己託送」とは?メリット・デメリットや2021年の「自己託送に係る指針」見直しを解説

「オフサイトPPA(フィジカル)」と「自己託送」の共通点と違いを整理

オフサイトPPA(フィジカル)と自己託送の概要を説明しましたが、それぞれの違いを模式図で表すと以下の通りです。

上記3つとも、電力の使用場所以外の遠隔地に発電設備を設置する点では共通しています。異なるのは「発電設備を所有(維持・管理)しているのは誰か」という点です。

オフサイトPPA(フィジカル)は発電事業者が発電設備を設置・維持・管理します。

自己託送の場合は、自社もしくはグループ企業が発電設備を設置し維持・管理します。

組合型自己託送は自社やグループ企業とは異なる別企業が発電設備を設置・維持・管理しますが、自社とこの別企業は「組合」を設立する必要があります。また、対象の発電設備は「新設のみ」に限られます。

それぞれの共通点や相違点をまとめると以下の表のようになります。

オフサイトPPA
(フィジカル)
自己託送 組合型自己託送
発電設備 所有者 発電事業者(第三者) 自社
※リースのケースもあり
組合の別企業
メンテナンス 発電事業者(第三者) 自社 組合の別企業
設置場所 発電事業者の敷地 使用場所とは離れた自社の敷地内 別企業の敷地内
種類 主に太陽光発電、ほか風力発電等 主に太陽光発電 主に太陽光発電
契約 3社間(発電事業者、小売電気事業者、自社) 2社間(自社、送配電事業者) 2社間(組合、送配電事業者)
供給方法 送配電システム経由 送配電システム経由 送配電システム経由
環境価値
追加性
(新設または運転開始から15年以内の場合)

(新設または運転開始から15年以内の場合)

(新設または運転開始から15年以内の場合)
導入費用 kWh料金 初期投資またはリース費用 組合による
再エネ賦課金 あり なし なし
燃料費等調整額(燃調費) なし なし なし
託送料金 あり あり あり
非常用電源としての活用 × × ×
補助金 × ×
FIP × ×
条件 新設かどうか 条件なし 条件なし 新設のみ
送電先の数 複数可 複数可 1か所のみ

(2023年11月時点)

それではポイントを解説します。

共通のメリット

それぞれの方法に共通するのが、再エネ電力の導入によって調達する電力に関しては二酸化炭素の排出量がゼロとして扱われることです。

政府は2050年にカーボンニュートラルの達成、2030年に2013年比で温室効果ガスの排出量46%を削減するという方針を発表し、国際社会に向けて発信しています。

企業も各種の規制・基準によって誘導されますので、この方針と無縁ではいられません。例えば、改正省エネ法の定期報告義務のある企業 ※2 は再生可能エネルギーの導入量と今後の導入見込みを所轄官庁に報告しなければなりません。発注元となる企業がサプライチェーンの取引先企業に脱炭素化を求める事例も増えており、改正省エネ法の報告義務対象外の中小企業にとっても脱炭素は喫緊の課題となりつつあります。

また、二酸化炭素排出量の削減に関して「RE100」や「CDP」などの国際イニシアチブへ対応をする場合には、「世の中に再エネ発電設備を増やすことに貢献した(これを「追加性」といいます)」という評価を得ることも重要です。新設でのオフサイトPPA(フィジカル)や自己託送は追加性のある電力調達方法とされており、国際イニシアチブへの参加を目指す企業が導入を検討するケースが増えています。

※2 エネルギー使用量が原油換算で年1,500kL以上の事業者

オフサイトPPA(フィジカル)のメリット・デメリット

続いて、オフサイトPPA(フィジカル)特有のメリットとデメリットについて整理します。

オフサイトPPA(フィジカル)のメリット

オフサイトPPA(フィジカル)の大きなメリットのひとつは、自社で発電設備を設置・運用する必要がないことです。PPAモデルの場合、発電設備の導入は発電事業者が費用を負担してくれ、運用面でも発電事業者に任せることが可能です。電力ユーザーは契約に基づいて電気料金を支払うだけなので、初期費用の負担を抑えて再エネ電力を導入できます。

また、オフサイトPPA(フィジカル)の契約では一定期間の電力単価を固定することが多く、その契約分に関しては市場の電力価格の変動影響を受けません。

各種の補助金制度の利用や、2022年度からスタートした「FIP制度」と組み合わせたサービスの活用など、利用の幅が広いこともメリットです。

オフサイトPPA(フィジカル)のデメリット・注意点

一定期間電力価格を固定できるPPA契約ですが、火力発電に必要な燃料費が下がった場合や原子力発電所の再稼働などの要因で市場の電力価格が下がった場合には、割高となってしまうリスクもあります。

それでも再エネ由来の電気であることのメリットは非常に大きく、特に今後予定されている「カーボンプライシング ※3」を考慮すると、単純に電力単価を比較すべきではないでしょう。

もうひとつのデメリットといえるのが、電力の供給に小売電気事業者を介する必要があるため「再エネ賦課金」が掛かってしまうことです。

※3 カーボンプライシング…炭素(カーボン)が含まれるCO2の排出量に価格を付け(プライシング)、企業などCO2排出者の行動変容を促すために導入する手法。代表的な制度としては「炭素税」等が挙げられます。

参照:資源エネルギー庁HP 脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?

自己託送のメリット・デメリット

自己託送特有の再エネ電力調達のメリットとデメリットについて整理します。

自己託送のメリット

自己託送のメリットは、自社やグループ企業の資産を有効利用できるという点です。電気の使用場所には太陽光発電設備を設置できる土地がないという課題と、遠隔地の土地や倉庫の屋根などを活用できていないという課題を併せて解決することができます。

また、発電設備の設置場所であまり電力を使用しない時間帯や稼働していない曜日に、その余剰電力を他の使用場所に送電できれば、再エネ電力の活用効率を高めることができます。自己託送の仕組みを使えば、遠隔地にある自社施設同士で効率的に再エネを分けあうことも可能になります。

自己託送では再エネ賦課金が適用されないという点も言われます(2023年11月時点)。これは再エネ賦課金について定めた再エネ特措法において、「小売電気事業者から電気の使用者に対して供給された電気」に対して賦課金を徴収することと規定されているためです。
ただし、上記の制度は再エネ賦課金の負担のあり方として公平かといった観点等で議論がされています。そのため、今後制度に変更が加わる可能性があることには注意が必要です。

自己託送のデメリット

自己託送の場合は、原則として自社で再エネ発電設備を設置・運用しなくてはなりません。発電設備を新設する場合は多くの初期投資を必要とするだけでなく、運用とメンテナンスなどにも継続的にコストが掛かります。

また、自己託送は一般送配電事業者に送電を依頼するため「30分値同時同量制度」の適用対象になります。これにより自己託送を行う企業には、電気の需要量と供給量を30分単位で予測して「需要調達計画」と「発電販売計画」を提出する義務が発生し、計画に対し乖離が発生した場合には「インバランス料金」を支払う必要があります。

再エネ電気を導入してコスト削減とCO2削減を両立させよう!

ここまで、オフサイトPPA(フィジカル)と自己託送の違いについて解説してきました。

どちらも、自社の電力使用場所の敷地内に再エネ発電設備を設置できない場合でも再エネ電力を長期的に調達できる優れた方法であり、企業がカーボンニュートラルに取り組むうえで大きな武器になり得ます。

エナリスは「オフサイトPPA(フィジカル)」「自己託送」どちらもサポート可能です!

エナリスでは、この記事でご紹介した「オフサイトPPA(フィジカル)」「自己託送」どちらもサポートすることが可能です。
どの方法が自社に合っているかわからないというお客さまは、お気軽にご相談ください。
状況やご要望をお伺いし、最適な方法をご提案いたします。

Supervisor 監修者
松原 弘直 Hironao Matsubara NPO法人環境エネルギー政策研究所 理事・主席研究員

千葉県出身。東京工業大学においてエネルギー変換工学の研究で工学博士、製鉄会社研究員、ITコンサルタントなどを経て、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて取り組む研究者・コンサルタントとして現在に至る。持続可能なエネルギー政策の指標化(エネルギー永続地帯)や自然エネルギー100%のシナリオの研究などに取り組みながら、国内外の自然エネルギーのデータ分析や政策提言を行う。

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